去る12月20日、さかえ屋の元代表取締役社長の中野利美氏に対して、西日本シティ銀行が第三者破産を申し立てた。中野氏の負債は、保証債務を中心に49億5,942万円。会社を去った元代表者に対し、銀行自ら第三者破産をかけるケースは珍しい。そもそも同社の社長交代劇に不可解な点があったことは、すでに報じた通りである。今回は、今まで伏せていた録音メディアの存在や、中野氏の長女・由香理氏における株式譲渡の経緯も交え、NCBの手法に再度疑問を呈したい。
<厳罰か報復かNCBの追い討ち>
「普通はここまでやらないし、明らかに経費倒れ。報復か見せしめと取られても仕方ない」(金融法務経験者)。
昨年末、福岡地裁飯塚支部から中野氏の元に届いた書面――それは、西日本シティ銀行(以下、NCB)が同氏の第三者破産を申し立てた旨の通知であった。
周知の通り、さかえ屋の元代表取締役社長・中野利美氏は、経営不振の責任を取って2012年5月に代表を辞任。メインバンクNCBの言うままに、保有株式もすべて無償で譲渡した。見るべき資産は抵当の付いた自宅のほかは皆無に近く、逆に負債は保証債務を中心に49億円を超える。家屋を換価して回収するだけなら抵当権を実行すれば済み、別途、200万円を予納して第三者破産を押し通す経済的メリットはない。むしろ、回収可能性のない金を支出したとして、株主から突き上げを食らうリスクすら出てこよう。裏を返せば、NCBは数百万円の裁判費用を捨て、株主代表訴訟のリスクを犯してまでも、中野氏の経営責任を追及し続ける意思を明確に示したものと言える。
とはいえ、潰れた会社であっても、銀行自身が元経営者の第三者破産を申し立てるケースは稀だ。費用がかさむことに加え、金融のプロとしての目が節穴であったことを自ら公言するに等しいからだ。もちろん、「特別な事情」が絡めば話は違ってくる。NCBが異例の態度で臨む特別な事情――そこには、中野氏が行なった粉飾決算がある。
粉飾決算が犯罪的な行為として非難されるべき事柄であることに、議論の余地はない。しかし、粉飾があったとしても同社の菓子は変わらず美味く、逆に、見合わぬほどの過大なペナルティーが課されるのならば、それは不当である。さかえ屋は、破綻の瀬戸際にあったといえど潰れたわけではなく、中野氏は代表を辞したうえ、家族の分を含めて全株式を無償で譲渡している。にもかかわらず第三者破産までかけるのは、バランスを欠いた咎のように思われる。
そうであるからこそ、冒頭で紹介した「報復か見せしめか」と言う見方が出てくる。中野氏は、経営者としての責任を自らに問う一方で、NCBのやり方にも多くの疑問を感じたという。思いを行動に移した同氏は、公の場でNCB批判を展開。その理不尽な対応と、さかえ屋再建とは別の思惑もあるかのようなNCBの態度を、世間に訴えはじめていた。今回の第三者破産申請は、その矢先の出来事だったのである。
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