マンションなどの耐震性調査が、福岡市では2011年2月末から2年間まったく進んでいない。「姉歯物件」の耐震偽装が社会問題となった05年の翌年、福岡市の発表を契機に始まったサムシング関与物件の調査だ。ほかの自治体では調査がほぼ完了したのに、"震源地・福岡市"で6年かかっても調査が終わらない。居住者らの安全と安心の確保にとって重大な事態であり、偽装の疑いをかけられた建築士にとって耐え難い苦痛を与え続けている。
<「住民の安全・安心確保」はどうなった?>
この調査は、05年の姉歯事件で耐震偽装が社会問題になった矢先に、福岡市が「サムシングが構造計算したマンション3件で偽装があった」と発表したのをきっかけに開始されたもの。福岡市では13年1月末時点で43件の調査が完了しておらず、この状況は11年2月末からまったく変化がない。
「居住者等の安全・安心を確保するため調査完了に向けた取り組みを一層強化する」とされながら、なぜ調査は進まないのか。
事の発端は、06年2月8日。福岡市がサムシング関与物件の偽装を発表したことだった。しかし、その後、同市が06年6月と9月に安全宣言を出し、耐震性になんら問題がないことが明らかになっている。
また、調査対象となったマンションなど588件(12年1月31日時点)のうち、調査が終了したすべての物件で安全宣言が出されている(所有者側が構造計算書を厳密に再検証しないまま補修した1件を除く。以下同じ)。
サムシング代表で管理建築士だった仲盛昭二氏(1級建築士)は「姉歯とは次元が違い、単なる入力データと出力データの不整合だ。耐震強度にまったく問題はない。当時は、構造計算書の一貫性は求められていず、設計途中で意匠設計などの変更があると、変更後のデータに基づいて再計算した出力データ部分を差し替えるのは、私だけでなく建築業界で普通に行なわれていた」と、当時から一貫して主張している。
<サムシング関与物件、安全だった>
当時、神奈川県では、姉歯事件で判明したマンション(サムシング以外の物件)が、耐震強度の極端な不足のため「震度5強で倒壊の恐れがある」とされ、行政が使用禁止命令を出し、住民が退去しなければならない事態に発展していた。
そのため、福岡市の発表によって、サムシングは「第2の姉歯」と悪者にされ、居住者らは「倒壊の恐れがあるのでは」と恐怖した。
そうした状況下で始まった調査は、住民の安全・安心確保のために、急ピッチで進むはずだった。
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