<罰則付きの要請 調査開始当時の緊迫感>
住民の安全・安心にかかわるだけに、自治体は危機感をもって取り組み、サムシング関与物件の構造計算書調査は、2007年6月末には、対象684件のうち372件の調査が終了した。残るは、312件。その91.0%の284件を福岡市が占めていたうえ、福岡市の調査は、24%しか完了していなかった。福岡市以外では、9割以上が終わっていたのとは大きな違いが生じていた。
調査は、おおよそ次のような手順で進められた。
特定行政庁(県や政令市など)が建築主等に構造計算書などの設計図書の提出を要請し、特定行政庁が不整合や誤りがないか調べ、不整合などがあれば耐震性を調査するというものだった。
この要請は単なる行政からのお願いではない。建築基準法第12条5項に基づくもので、罰則(報告しなかったり、虚偽報告した場合、50万円以下の罰金)が適用される強力な要請だった。
九州地方整備局に「九州地方構造計算書偽装問題対策連絡協議会」が設置され、06年12月27日には第1回会合が開催され、九州地方整備局と特定行政庁の関係者ら進捗状況を話し合った。議事概要からは、住民の安全・安心を最優先した当時の緊迫感が伝わってくる。
設計図書のある物件については、特定行政庁が06年度中(つまりは約3カ月後まで)に調査完了を目標にすると申し合わせた。設計図書がない場合、構造計算書からの検証ができないため、建築主だけでなく所有者等も含め、耐震診断を積極的に働きかけることにした。
<構造計算書入手し、検証するはずが...>
設計図書、つまりは構造計算書を入手しないと、実際の検証が始まらない。したがって、それを入手するために、取得の促進や働きかけの強化を繰り返し申し合わせてきたにもかかわらず、肝心の福岡市でいっこうに調査が進まない状態が続いた。
07年7月19日には、「九州地方構造計算書偽装問題対策連絡協議会(第7回)」で、建築主等に働きかけるのに加え、行政主導での調査に着手することを確認した。
翌8月23日に開かれた同協議会(第8回)。福岡市は1カ月間に24件しか調査が進まず、未完了全体に占める割合は93.9%と逆に上昇した。協議会では、対応策を検討し、構造計算書を入手するために、建築基準法第12条5項による報告を再度要請することを確認。さらには、報告の意思がない者については罰則を適用し公表することを検討することにした。
<福岡市以外はすべて入手完了>
こうして、07年11月20日には、福岡市以外の自治体で、すべての物件で設計図書の入手を完了した。しかし、福岡市は、239件も調査が残ったままだった。
12月20日の協議会では、協議会発足後1年を総括し、進捗が遅れている原因を分析。「居住者等の安全・安心を確保するため、調査完了に向けた取り組みをより一層強化する」と申し合わせた。
とはいっても、福岡市以外はすべて入手を完了し、福岡市だけが200件以上も調査を残しているので、強化しなければいけない自治体が福岡市なのは自明だった。
さらには、「建築主等の協力が得られない物件に関しては、所有者・占有者に対しても12条5項の報告を求める事とする」とした。
建築主というのは、マンション開発したデベロッパーなどのことだ。建築基準法第12条5項の要請は、もともと建築主だけでなく、所有者や居住者にも報告を求めることができると定められている。しかし、01年8月前に完成したマンションの場合、管理組合への構造計算書交付が義務付けられていず、構造計算書を保管していないケースが多かった。しかし、ここに至って、住民の安全・安心確保のため、所有者などにも要請することに踏み込んだのだ。
では、福岡市はどのように取り組みを強化したのか。
「行政主導での調査」や「罰則の適用・公表の検討」がなされたかどうか。市建築指導課長は取材に対し、「本来は建築主がやること」「個人の財産なので罰則を振り回す段階ではない」と述べた。「07年末から5年が経っているのに、いつになったら罰則を検討する段階になるのか」との質問に対する回答はなかった。協議会で確認された対応策に着手することなく、今に至ったとの疑問はぬぐえない。
また、所有者・入居者への12条5項の要請については、市建築指導課長は「マンション管理組合には要請していない」と答え、とにかく"建築主任せ"の姿勢を示した。
建築主が管理組合に知らせていなければ、所有者・入居者は6年間も事態を知らないまま今も住んでいることになる。
※記事へのご意見はこちら