福岡県篠栗町のマンションの耐震性をめぐって、住民らが構造計算を担当したサムシング(株)代表者である1級建築士に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が27日午後、福岡高裁で言い渡される。1審福岡地裁は「基本的な安全性を損なう欠陥がある」として、1級建築士らに補修費用など1億7,500万円余の支払いを命じ、1級建築士側が控訴していた。控訴審を通じて、新事実が明らかになり、1審判決を見直す可能性が生まれている。姉歯事件で耐震偽装が社会問題になった2005年に提訴され、構造計算書偽装問題として注目を集めた裁判だけに、控訴審判決への関心が高まっている。
1審判決などによると、住民らはサムシング代表者だった1級建築士仲盛昭二氏が同マンションの構造計算を担当したところ、誤った構造計算を行ない、安全性を確保する注意義務を怠ったとして損害賠償を求めていた。また、住民らは当初、マンション販売会社や施工建設会社に対して瑕疵担保責任や不法行為に基づく損害賠償を請求していたが、それぞれ訴訟外や訴訟上の和解が成立している。
控訴審で、仲盛氏は「構造計算上の耐震強度には何ら問題はない」「建物の不具合は、施工業者による施工ミスに起因するものであり、構造計算とは無関係」と主張している。
仲盛氏側は、1審判決が判断の根拠にした鑑定に法的誤りがあると明らかにした。1審判決は、鑑定人上瀧邦宏氏の鑑定(「上瀧鑑定」)を根拠の1つにして「安全性が確認できない」としていたが、仲盛氏は、建設省告示によると、このマンション敷地には「上瀧鑑定」が用いた限界耐力計算という構造計算法を用いることができないと主張。高裁が安全性について、どう判断するか注目される。
また、構造計算を担当した会社の代表者が、設計担当者でもないにもかかわらず、被告要件を満たすかどうかも争点になっている。設計図書に設計者として記名押印した建築士が法的責任を負うことになるが、このマンションの建築確認当時の建築基準法(旧法)では、構造計算書は設計図書ではないうえ、仲盛氏は、構造計算の設計担当者ではなく、構造計算書へ記名押印していないことを控訴審で明らかにしている。仲盛氏は「この事件が提訴された当時、『耐震偽装問題』の風が吹き荒れるなかで、逃げていると思われたくないと思い、まず、住民の皆様達の建物の安全確認および、資産の低下を防ぐことを第一に考え、サムシング元代表として道義上の立場から対応してきた」と述べている。
住民側は、「仲盛氏の耐震性の再計算は、到底信頼できない」「(まれに発生する中小地震に対して建物が壊れないようにする)1次設計で構造安全性が欠如している」として、控訴棄却を求めている。
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