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福岡市 セアカゴケグモ注意報(後)~咬まれるとどうなるか?
社会
2013年2月27日 17:37

<理解をしているからこそ共存できる原産地民>
 2月6日、博多区でセアカゴケグモが発見されてから、同27日現在、福岡市での捕獲、被害情報は報告されていない。しかし、セアカゴケグモの最適活動温度が25℃であることを考えると、春になり暖かくなるにしたがって、接する機会は増えてくると考えられる。

 原産地、オーストラリアでは、民家の庭に、ごく自然に棲息しているという。オーストラリアに留学した人の話によると、「庭には毒グモがいるから気をつけてね」と、軽く注意を促されたらしい。
 このように外国人は騒ぐことなく共存している様を聞くと、日本でセアカゴケグモが発生するたびに騒ぐのは恥ずかしい、という意見が生じがちだ。しかし原産地といきなり馴染みがない生物を迎えた土地での対応は事情が変わる。そもそも共存・共生とは、対象物を理解したり、対処に慣れているから成り立つものだ。セアカゴケグモと共存している人々は、咬まれないための注意事項や咬まれたときの措置を知っている。今でこそ死亡例はなくなったが、血清が開発される前まで咬まれれば死に至る症例があったことも知っている。これらを熟知しないうちは、「生きものだからむやみに殺してはいけない」「セアカゴケグモと共存しよう」とは言えないだろう。

 とくに、愛玩動物のように接してはいけない。セアカゴケグモは、日本の生態系には存在しなかった「外来種」であり、人の生命、または身体に関わる被害があることから、「特定外来生物」に指定されている。
環境省のHPでは、外来生物による生態系、人の生命・身体、農林水産業への被害の防止を目的に、外来生物法で特定外来生物を指定し、これらの生きた個体を持ち運んだり、飼育したりすることを禁止している。
 興味本位で飼ったり、野外に放したりしてはいけない。

<就寝中に咬まれた例も>
 福岡市のセアカゴケグモ対策講習会で発表された内容から、具体的な症例を紹介する。

 日本で公的機関に届けられた初の咬傷例は、1997年7月11日、関西国際空港で午後3時半頃側溝のフタを持ちあげて、溝の清掃をしていた職員が左大腿部を咬まれた事故。この職員はフタの裏に沢山いたセアカゴケグモを踏みつけながら清掃作業をしていた。その後痛みを訴え、関西空港クリニックで診断を受けると、左大腿部に直径5cmの発赤と腫脹があり、時間と共に痛みもひどくなり股関節のしびれなどの症状がみられた。経過観察のために入院したが、翌日には痛みも消え、退院している。

 他の症例をあげると、28歳の女性が就寝中に左下肢の激しい痛みに目が覚めた。痛みが強いため近所の医者に行った後、勧められて公立病院の神経内科に行ったという。神経内科でも異常は見られず鎮痛剤を投与された。家に帰って布団をみると、セアカゴケグモの死骸を発見したため、医師にみせて原因を特定してもらったという。
ある福岡市の女性は靴を履いた時に痛みを感じ、靴を確認するとセアカゴケグモがいた。その後、全身に痛みが広がり病院に搬送された。意識はあったが収縮血圧が高くなっていた。軽度の呼吸苦があり、嘔吐を1回した。しかし翌日には退院している。

 セアカゴケグモに咬まれた場合、全身の痛みを訴えることがよくある。最初は咬まれた箇所が針に刺されたような感覚になるが、痛みを感じない事もある。その後、痛みが徐々に出てきて拡大していく。セアカゴケグモの毒の特徴はリンパを通じて広がることだ。刺された位置とはまったく関係のないところに痛みが出るという事もよくある。だから咬まれた証拠がないと、診断も難しくなる。

 咬まれたときのバイタルサイン(生命に危険が迫っているのかどうかを判断する指標。意識、血圧、脈拍、 呼吸、体温の状態が判断材料)は血圧に現れることが多い。症度は分類されており1度が無症状、咬まれた箇所の疼痛。2度は患肢の痛みや発汗はあるが、バイタルサインは正常というもの。3度はバイタルサインの異常や嘔吐などの全身症状。痛みのピークは3~4時間で表れ、小児や妊婦は症状が重症化する。

 毒性はα-ラトロトキシンというタンパク質が発見された。これは神経全般に働き、伝達物質を枯渇してしまう作用がある。咬まれると多彩な運動症状、自律神経症状が出てしまうが、少量しか分泌していないので、即死はまず考えられない。「ハチのなかで最も大きく毒性が高いオオスズメバチのほうが、ずっと危険ですよ」とは、駆除にあたった区役所職員の弁。

<知らないものは怖い>
 九州の温暖な気候を考えると、今後、セアカゴケグモが繁殖し、定着する可能性は否定できない。咬傷被害を出さないために、市民にできることは、セアカゴケグモの情報に興味を持つことだ。
 前述の区役所職員は「セアカゴケグモが日本で発見されて以来、行政機関では、この特別外来生物にどのように対処すべきか、きちんとした情報がまとめられてきたとは言い難い。もし、はじめから対策案をまとめることにきちんと取り組んでいれば、後から発生した地域が参考にできる貴重な資料となっていただろうに」と、語った。だからこそ、福岡市では、研究を重ね、対策を練り、情報を収集している。

 また、情報を鵜呑みにせず、冷静に判断することも大切だろう。市民の不安を煽らないよう、情報公開を制限してしまうような場合もある。たとえば先述のようなオーストラリアの人たちがセアカゴケグモと共生しているという状況が、報道などによって「オーストラリアの人たちはセアカゴケグモと共生しているのだから、日本で見つかっても気にしなくて大丈夫」という雰囲気で広まることはよくあることだろう。

book.jpg いずれにせよ、気にしなくて良いといわれると無関心になってしまうのは人間の性だ。しかし、近年になって、研究報告が少しずつ世間の目に触れるようになり、書籍も出た。2012年7月に発行された「毒グモ騒動の真実―セアカゴケグモの侵入と拡散―」(発行:(株)全国農村教育協会)は、日本蜘蛛学会が、1995年にセアカゴケグモが発見されてから2011年3月末までの歩みを総括した、興味深い書籍である。このような書籍が出版され、流通ルートに乗るのは、世間でセアカゴケグモに対する興味が高まっていることの表れだろう。

 知らないものは怖い、しかし知れば共生できる道がある。今後、何事もなければセアカゴケグモは6~8月に繁殖期を迎えると思われる。この時期を何事もなく乗り切るためにも、今のうちに、様々な媒体の情報に目を向けて、対処法を身に付けておきたい。

(了)
【特別取材班】

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