＜現場に任せることで社員の意識が変わった＞
　現代表の光枝氏は、1951年に福岡市で生まれた。九州大学経済学部を卒業し、同社に入社する前までは学習塾の事務長を務めていた。40歳を過ぎた頃、「自分は勤め人には向かない」と感じ、資格を取るため専門学校に入学。その間のアルバイト先を探していたところ、当時、光枝氏の同級生が社長だった同社から声がかかり、社員として入社した。その後、同級生の社長だった人物が交通事故に遭い、１年間入院することに。結局、フルタイムで働くようになり、その後は社長を引き継いだ。

　光枝氏は02年夏、かなり進行した胃ガンを宣告された。胃の全摘出手術を経て一命は取り留めたが、退院後１～２年は精神的に不安定な状態が続いていた。しかし一方で、新たな発見もあった。退院して復帰した光枝氏が出社して最初に感じたことは、「自分がいなくても会社はまわる」ということだった。そう思うと肩の力が抜けたのか、就任後「大変だ」と感じていた５年間とは違う視点で経営を見つめられるようになった。
　これを転機に、社長就任６年目からは経営の方法を変えた。光枝氏は以前、営業から工場の現場まで１つひとつ細かい指示を出していた。それを退院後は各セクションに任せるようになり、自主性を持った社員が育っていった。その結果、03～08年までの５年間、同社の売上高が毎年15％ずつ増という業績を残すことができた。「08年度の業績は過去48年の社歴のなかで最高の売上を記録しました。設備の導入や社会状況への対応などを図りましたが、一番の要因は社員の意識改革だと思います」と、光枝氏は当時を振り返る。

　きっかけは、ISO14001の勉強会だった。認証までの１年間、「紙のムダ使いをなくせば環境負荷も下がり、利益も上がる」という話を、社員が中心となって行なった。04年に無事ISO取得したあともそこで終わらず、プライバシーマークやグリーンプリンティング工場認定など次の目標を社員の側から提案していく風土ができていた。環境をテーマに社員間で話し合ったことが、結果的に環境以外の問題について、社員自らが意識することを育んでいった。

＜「当たり前」を確実にこなす、それこそが成長の第一歩＞
　光枝氏のモットーは「当たり前のことを当たり前に！」だ。同社を引き継いだとき、当たり前のことができていないと感じた光枝社長は、引き継ぎの段階でこれを変革することを決意した。そこで、社員全員で以下のスローガンを毎日朝礼時に唱和している。「我々が常に心すべきこと！１つ、納期を厳守すること。２つ、丁寧であること。３つ、正確であること。４つ、適正料金であること」。
　歴史の古いオフセット印刷部門で、同業他社と違いを出すのは難しい。同社は、歴史の浅いオンデマンド印刷部門において比較的早期にシステムを導入したことで、他社より先行してきた。「環境への対応ももちろん必要ですが、本業の印刷でお客さまに評価をいただかなければなりません。価格競争にも十分対応できますが、安かろう悪かろうでは結果的に自分たちの首を絞めることになります。短納期が可能なオンデマンド印刷のほか、１部ずつ印刷内容を変えられるバリアブル印刷、WEBとオンデマンド印刷を組み合わせて導入した名刺自動受注システム『WASシステム』など、紙資源のムダづかいを省きながら他社にない大きな武器を開発してきました」（光枝社長）。

　同社には、社員相互の親睦団体である「親和会」という組織があり、季節に応じてタケノコ掘りやバーベキューなどを企画。社内の融和を図っている。また、２年に１度の社内旅行では、北海道のほか、台湾、韓国など海外にも旅行している。年３回発行の社内報『サンフラリッシュプラス』も各方面に好評だ。
　当たり前のことを当たり前にやる、それ以上に自ら企画提案する能動的社員を育てながら、会社組織も成長させていく。それが同社の最大の特徴であり強みだ。

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＜COMPANY INFORMATION＞
■三栄印刷（株）
代　表：光枝　治郎
所在地：福岡市博多区千代1-6-1
設　立：1963年10月
資本金：2,000万円
ＴＥＬ：092-631-3336
ＵＲＬ：http://www.aaa-print.co.jp/

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