民法の大改正へ向けて、法務大臣の諮問機関である「法制審議会」の中間試案がまとまった。正式な答申を経て、法務省は早ければ15年に改正案を提出したいと報じられている。改正が実現すれば、民法制定以来120年ぶりに債権関係の規定が全面改訂される。しかし、ちょっと待って欲しい!
報じられた範囲の中間試案を見ると、経営者本人以外の個人保証を認めないとか、企業が多数の相手と契約することを予定してあらかじめ定めている「約款」について規定を設けるなど、時代に合わせた新設・改正項目が挙げられている。「あったほうがいい」と感じる国民も少なくないだろう。これらは、中小企業家にとって、取引・契約が企業活動の基本となるだけに、取りまとめ前から注目されていた問題だ。
しかし、ニュースになっているのは、中間試案約300項目のうち、わずかな部分に過ぎない。わかりやすく、受けのいい内容が主にクローズアップされており、多くの国民が、約90ページに及ぶ内容を目にするのはこれからだ。
今回の中間試案は、民法のうち契約などの債権関係のルールの見直しを審議してきた法制審議会民法部会が2月26日、諮問(2009年10月)から3年余の議論を経てまとめたものだ。法制審議会が民法改正要綱を法務大臣に答申するのは、さらに約1年かかるとみられる。専門家が数年間かけて議論した「契約のルール」の全面改訂を、国民が十分に理解しないままスケジュールに合わせたように進んでいくのでは将来に禍根を残す。
今回の債権関係の改正については、法律の実務家からも、「現行法で不都合がない部分も見直す案になっており、改正の必要性がわからない」「複雑になるだけ」との声があがっている。もともと中間試案取りまとめに至るまでにも、日本弁護士連合会が、改正を前提とした拙速なとりまとめを戒める見解を発表していた。
今後、パブリックコメントなどの手続きがあるだろうが、形式的に国民の声を聞くだけでなく、十分な国民的議論が求められる。
民法改正といえば、債権関係とは別の分野で1996年2月に法制審議会が答申した民法改正案要綱がある。その内容は、婚外子の相続差別規定の撤廃や夫婦別姓など、憲法の人権保障にからむ喫緊の課題だった。中間試案が取りまとめられた翌日(2月27日)、婚外子の相続差別をめぐっては、最高裁が2件の裁判を大法廷で審理することを決め、合憲判断が見直される可能性が生まれる事態に発展している。答申を受けてから16年以上がたちながら、すでにある改正案要綱を店ざらしにし続けるのは許されない。同じ民法改正の議論をするなら、今回の債権関係よりも、96年答申の方を優先すべきだろう。
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