裸足に近いシューズとして全米を中心に急速な拡大を見せるビブラム社のファイブフィンガーズ。日本総代理店を経営しているのはイギリス人ジェイソン・ウイリアム氏。2010年末にベアフットインクジャパン（株）（本社：東京都渋谷区）を設立し、２年間で約５万4,000足を売り上げた。「日本市場の潜在力は高い」として更なる販路拡大に意欲を示すジェイソン氏に、現状や抱負を伺った。

　――ファイブ・フィンガーズとはどのような商品なのでしょうか。

　ジェイソン・ウイリアム氏（以下、ジェイソン）　ビブラム社というのはイタリアの靴底メーカーです。一般にはあまり知られてないかも知れませんが、登山家の間では有名です。ファイブフィンガーズは文字通り５本指のシューズ。新しい商品で裸足感覚を追求したもので06年にアメリカ市場のヒットを契機として世界に広がりつつあります。

　――なぜこの商品を扱おうと思われたのですか。

　ジェイソン　私は格闘技が得意で体力には自信がありました。ところが、右足のじん帯を損傷してジョギングができなくなったのです。そうした時にオーストラリアで代理店をしている友人からファイブフィンガーズを勧められ、日常生活で履いてみたところジョギングができるまで回復しました。これを普及させたいと思いました。

　――日本市場を選ばれた理由は。

　ジェイソン　私の母国イギリスには、すでに総代理店がありました。ただ日本でも先発の代理店はあったのです。それでもやりたいと思いましたのは、私が足袋が好きで頻繁にはいていましたし、一時日本の一本下駄をイギリスに輸出していたこともあります。その経験がありファイブフィンガーズは足袋の発展系ではないか、日本人にこそ履いて貰いたいと思ったのです。商品力には絶対の自信がありました。

　――商慣習の違いで困難は感じませんでしたか。

　ジェイソン　法人設立の手続きの煩雑さなどいわゆる規制は厳しいと感じたことがあります。しかし、日本人は裏切らない、言ったことはやる、急がない、という美徳があります。信頼できるお客様をもつことはビジネスではとても重要です。

　――ファイブフィンガーズについてもう少し詳しく教えて下さい。日本ではどういう方が買われていますか。

　ジェイソン　ランナーには安定して需要があり、代理店さんの頑張りで販路は広がっています。トッププロスポーツ選手、一般アスリート、主婦、サラリーマン、子供消防署員、ある病院では医師、看護師、患者さんまで利用して頂いています。

　――受け入れられる要因はどこにあると思いますか。

　ジェイソン　やはり、はいた時の感覚が裸足に近いということだと思います。重さは100～200ｇ。外反母趾の方から「はじめて履いて痛くないシューズに出会った」と、喜びの声を頂きました。また、通勤時に履かれる方も増えてきました。震災の時に、ハイヒールで苦い経験をしたことが契機となったOLの方もおられます。その経験談が雑誌に掲載された直後には注文が殺到しました。軽さ・柔軟性・耐久性が特長なのでバッグに簡単に入ってしまうという手軽さも要因だと思います。一方で、裸足と決定的に違う点もあります。５本指シューズをはくことで強制的に指の間隔を空けます。靴の浸透でくっついてしまった指を古来の形に戻すのです。

　――昨年は約２万足を売り上げました。順調なのでは。

　ジェイソン　大手メーカーの人気モデルは10万、20万足を売り上げます。ファイブフィンガーズはアメリカでは昨年200万足売れました。それを考えればまだまだです。しかし、ブームのような一過性のものにしたくないです。具体的な数値設定はしませんが、将来的には日本の社会に深く浸透させていきます。

　――そのために必要なこととは。

　ジェイソン　こういう商品は理解していただくまで時間がかかります。啓もう活動が必要です。また、正しく活用しないと逆効果になってしまう可能性があります。そのため、ウォーキングやランニング講習会などのイベントを実施しています。活用法と効果が浸透すればブームとは異なる臨界点を迎えるかもしれません。

　――正しい活用法とは、またけがへのリハビリ効果はあるのでしょうか。

　ジェイソン　九州でインストラクターをお願いしている看護師・升井はるみさんもじん帯の損傷がきっかけとなったのは事実です。足首が固定され動かなかったのが常時履くことによって1カ月で普通に歩けるようになりました。しかし、ファイブフィンガーズは治療器具でも薬でもありません。履けばケガが治ると安易に考えるのは危険です。人間が本来持っている復元力を助けると思ってください。また、使用法はつま先から着地すること。かかとからは危険です。

　――九州は市場としてどうですか。

　ジェイソン　有望です。間もなく防水性の高い商品が発売となりますが、基本的に裸足に近い商品です。冬場はジムなど活用する場が限られます。暖かい時期の長い九州は魅力ある市場です。

　また、九州ではより自然に近い形を目指します。ファイブフィンガーズを履いてのランニングは盛んになりましたが、老若男女できるウォーキングを広めたい。文明によって退化してしまった人々が足元から健康になっていただければ幸いです。

　――中小企業の経営者に一言――。

　ジェイソン　私は前職より所得が落ちましたが、今の仕事を天職だと思っています。また、日本の人口はイギリスのおよそ２倍です。世界トップ10に入っている巨大な市場です。商品力と理念があればかならず成功すると思います。また、その力を付けるために広く世界に視野を向けることも大事だと思います。

＜COMPANY　INFORMATION＞
■ベアフットインクジャパン（株）
代　表：ジェイソン・ウィリアムス
所在地：東京都渋谷区神宮前3-25-6
設　立：2010年12月
ＵＲＬ：http://www.barefootinc.jp/

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