今年7月の参院選から、選挙期間におけるインターネットの利用が解禁される見通しとなっている。ここ数年で、ツイッター、フェイスブックなどのSNSを活用する政治家は増えているが、選挙時における利用解禁で、より普及が加速していくだろう。一方で、「なりすまし」や「匿名の誹謗・中傷」などの懸念もある。はたして、大量の情報が混在するネットでの情報発信は、選挙、そして政治にどのような影響を与えるのか。そして、われわれ有権者はどのような注意を払うべきか。すでにネットを通じて、政治・行政分野に関わっている専門家・業者を取材した。
<メリットは低コスト・大量配布?>
「資金が乏しい私にとっては公示前までにいかにネットで支持を集めるかが勝負です」と、昨年末の衆院選である新人候補は自信満々で語っていた。たしかに紙に比べて、メールは印刷費も送料もかからず、費用を大幅に抑えることができる。加えて、その新人候補は、自分の政見などについて、ほぼ毎日ネットでの配信も行なっていた。しかしながら、経過を見る限り、視聴者数が2ケタを超えることはなかった。落下傘候補で選挙区に後援組織がなく、知名度も乏しい新人候補が、無数の情報が混在するネットのなかで情報発信をしても誰にも気づかれない。付け焼刃では、ネット利用を従来の政治・選挙活動の代替とすることは難しい。
ネットによる情報発信は、それまでのプロセスまで容易に見ることができる。昨今、有名人のネット上での発言が物議をかもし、何も言わずに削除したことをまた批判されるというケースが度々起こっている。誤った情報発信を一旦削除したとしても、他者から記録されて流布されることもある。
今回取材した、福岡市のIT企業・ビジネスマトリクス社の勘崎和也代表は、「大事なのは発信する前に、情報を選別する判断基準の核となる価値観、『コアバリュー』をハッキリとさせておくことです」という。同社は、製造業向けの生産管理、顧客管理などの営業支援といったシステムを受注・開発しており、独自に開発したマーケティング・システムが直近の国政選挙に導入された実績を持つ。また、データを基に、候補者の特長が伝わりやすいキャッチフレーズ作成といったサポートも行なっている。
選挙におけるネット利用解禁によって考えられるメリットとして、『経費が安く抑えられ、より大量に配布できる』ということが考えられているが、それはあくまでも発信する側の利点にすぎない。選挙期間中、「清き1票を!」と投票を呼びかけるメールやメッセージが大量に飛び交う状況は、考えただけでおぞましい。大切なのは、有権者に政見を伝えて関心をもってもらうこと。とくに昨今、国や各地方自治体でIT活用が叫ばれている。有権者としては、〝政治を志す者〟がどのようにネットを活用しているかもチェックしておいたほうがいいだろう。
<重要なのはデータ解析>
勘崎氏は、「ただ情報を大量に頒布するだけでは本当にネットを活用しているとは言えません」と、ネット利用解禁の先にある重要なポイントは政治におけるデータ解析の推進だと語る。オバマ氏が再選したアメリカ大統領選では、統計専門家のネイト・シルバー氏が全50州の選挙結果を予測し、すべて的中させて話題を集めたことは記憶に新しい。シルバー氏の予測は独自の確率論で行なわれるという。その基となるのは、各選挙区の人種・宗教などの人口動態、世論調査など一般に公開されたデータだ。
「日本でも現在、各省庁や自治体のホームページで人口統計や各種リサーチ結果を見ることができます。より国民目線に近い政治が行なわれるためにも、日本の政治はデータ解析にもっと力を入れるべきです。あくまでも〝ネットはインフラ〟に過ぎません。しかし、(選挙における)ネット利用の解禁によって、政治家のデータ解析に対する関心がより高まることを期待しています」と勘崎氏はいう。選挙だけでなく、政治そのものがより国民に開かれたものになり、さらには、ネットをより民意を汲み取る『インフラ』とすることが、利用解禁の目的となるべきではないだろうか。
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