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コダマの核心

「丸源ビル」の川本源司郎容疑者の逮捕が突きつけた「脱税と節税は紙一重」(前)
コダマの核心
2013年3月 8日 11:02

 東京・銀座や福岡・中洲で多数の飲食ビルを経営する丸源グループのオーナー、川本源司郎氏(81)が3月5日、法人税の支払いをのがれたとして、法人税法違反の容疑で東京地検特捜部に逮捕された。丸源ビルグループは、赤字申告をして、法人税を払ったことがないことでつとに有名な会社である。上手の手から水が漏れたのか。国税の執念が実ったのか。脱税と節税が紙一重であることを見せつけた事件だった。

<国税に対して「全戦全勝」と豪語>
 東京地検特捜部の発表によると、グループ企業である東京商事にテナント料を集約、一部の賃料を売り上げから除外したり、所有するビルを売却したように装って架空損失を計上するという手口で、2011年12月期までの3年間に約28億8,400万円の法人所得を隠し、約8億2,000万円を脱税していたとされる。東京商事は昨年4月に清算している。

 「節税はゲーム」とうそぶく川本氏を、特捜部は悪質な脱税者として切り込んだ。川本氏は「銀座の不動産王」と呼ばれたが、当代きっての「節税王」でもあった。丸源グループが高額所得法人に顔を出したことは一度もなかった。赤字の税務申告をして、法人税を払わなかったからだ。それでいて赤字のはずの丸源グループは、飲食店ビルを次々と建てていった。
 東京国税局は丸源グループに目をつけた。何度も調査に乗り出したが、脱税の証拠をつかむことはできなかった。法に触れることなく、赤字申告していたからだ。逮捕前、メディアの取材に、川本氏は「国税とは、何十年間も真正面からやってきて、全戦全勝」と豪語したのもうなずかれる。

<丸源の手の込んだ節税手法>
 節税の基本は、税務署に赤字申告することである。赤字化を積極的に進める。役員報酬を法人税率よりも低くなる範囲で増加させたり、前倒しで設備投資をかけたり、いろんな方法を実行して赤字にもっていく。目標赤字は、前期の黒字額と同額だ。
法人税法では、欠損金の繰り戻し還付を実行すれば、前期の法人税が戻ってくる。利益が出た年度の翌期を赤字にすれば、前期の法人税が戻ってくる。前期と当期の平均利益をゼロにする。2年間で帳尻を合わせていく。これが通常の節税法だ。

 丸源の節税は、もっと手が込んでいる。読売新聞(3月6日付)は、こう報じた。

 川本容疑者は貸しビル業を始めた1960~80年代に「丸源興産」「丸源」「丸源ビル」など6社を相次ぎ設立。商号を変更したり、本店を銀座から静岡県熱海市、北九州市などに移したりした後、2008年までにすべて清算した。その後、これらの会社と入れ替わるように、脱税容疑がもたれている「東京商事」など少なくとも5社を設立。同様に商号変更や移転を繰り返し、うち3社を12年までに清算していた。

 かねてから丸源グループに脱税疑惑を抱いていた東京国税局は昨年4月、強制調査に入った。強制調査とは、映画『マルサの女』で一躍有名になった、あのマルサ(査察)のこと。税務署では取り扱えない脱税事案については、国税局の査察部が強制調査を行なうことができる。国税犯則取締法により収税官吏章を用いて強制調査を行ない、検察に脱税犯人として告発する事務を行なう。
 社名と登記地を次々に変え、清算させた会社を同じ社名で復活させる不可解な工作に、東京国税局は脱税となる決定的な証拠をつかんだのだろう。当初は、東京商事だけでなく、他のグループ企業も強制調査を行なっており、疑惑は100億円に近かったとされる。川本氏の節税に、東京国税局は初めてノーを突きつけたのである。

(つづく)
【児玉 直】

| (後) ≫


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