<経営会議(1)>
維新銀行では経営会議は毎月2回開催されている。1回は取締役会が開催される日の午前中に行なわれており、取締役会に諮る前に議案の検討を行なう会議である。
経営会議は、会長、頭取、専務取締役、常務取締役、本部所管取締役をもって構成されており、経営会議が必要と認めた場合は、関連のある取締役や部長などの出席も認めている。監査役は経営会議に出席して意見を述べることができることになっている。従って、維新銀行役員15名のうち、経営会議への参加資格がある取締役は11名で、地区担当取締役である松木東部支店長、堀部常盤支店長、大島本店営業部長、原口福岡支店長の4名は、経営会議のメンバーから外れていた。
経営会議の議長は取締役頭取が務めることになっており、取締役頭取が不在の場合は取締役会長が代行することが明記されている。また経営会議の決議は、構成取締役の3分の2以上の出席を要することになっており、その出席取締役の過半数をもって決議を行なうとしている。利害関係を有する取締役は決議に参加することは出来ない。なお、経営委員会で決議された事項については、取締役会へ報告を要することになっている。
つまりこの経営会議で承認されたことは取締役会でも承認されることが慣例になっており、経営会議はいわゆる大手企業が設けている「常務会」に相当するもので、名実ともに維新銀行の最高意思決定機関と位置づけられていた。
午前8時45分、守旧派のメンバーである沢谷専務、吉沢常務、北野常務、川中常務、古谷取締役の5名が一緒に会議室に入り、夫々の席についたが互いに口を交わすことはしなかった。
ほとんど時を同じくして梅原取締役、その後から木下取締役、小林取締役、大沢監査役が入場し、自分の席に着いて会議の始まるのを静かに待っていた。
暫くすると男性秘書の先導を受けた栗野が松葉杖を突きながら会議場に現れた。久し振りに姿を現わした栗野の異様な形相を見た改革派のメンバーたちは、この会議に賭ける栗野会長の並々ならぬ覚悟を思い知らされることになった。その後にオブザーバーの谷本相談役が続き、最後に頭取の谷野が静かに入場し議長席に着いた。
会議の始まる2分前には出席予定者全員が揃ったが、誰一人声を出す者はなく、場内は水を打ったようにピーンと張り詰めた空気が漂っていた。
※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。
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