NET-IB連載記事「大さんのシニア・リポート」でおなじみの大山眞人氏が、自身の振り込め詐欺被害に遭った経験に基づいた著書「騙されたがる人たち 善人で身勝手なあなたへ」(講談社)を上梓した。付録のCDには、同氏と詐欺容疑者との生々しいやりとりが収録されている。
以下は、大山氏から届いた、上梓にあたっての挨拶文である。
冬ざれた景色が窓の外に広がっていても、3月の声を聴くとどことなく春めいた気分にさせられるのは、わたしだけではないと思います。
このたび『騙されたがる人たち 善人で身勝手なあなたへ』(CD付き)を講談社様から上梓させていただきました。
悪徳・詐欺商法の事件を追いかけて20年になります。それは廃れるどころか、ますます猛威を振るい、我がもの顔で闊歩しております。被害者の多くは高齢者で、被害額も天井知らずの有様です。とくに息子や孫を騙り大金をせしめる「オレオレ(振り込め)詐欺」では、数度にわたり1,000万円をはるかに超す金額を詐取されるという事件が多発しております。
実は、そういうわたしも5年前の秋、次男を名乗る男に騙され、20万円を詐取されるという大失態を演じてしまいました。何しろわたしは「悪徳・詐欺商法」に関してはプロという自負があります。そのプロがいとも簡単に騙されてしまったのですから、まさに「穴があったら入りたい」の心境でした。拙著を上梓したのも、容疑者に対するリベンジの気持ちがあったことを否定しません。
悪徳・詐欺商法の手口や被害状況を詳しく分析してみますと、必ずしも一方的に騙されたのではなく、一部に「自ら進んで騙される」という、これまでとは明らかに違う構図が浮かび上がっていることに気付かされたのです。「騙される」のではなく、実は「騙されたがっている」人たちが数多く存在しているという事実を確認しました。
でも、このことを声高に話すことは極めて困難です。「騙されるのは善人」という共通認識がある以上、被害者の多くを敵に回すことになる可能性があるからです。しかし、この事実を明らかにしなければ、結果として悪徳・詐欺商人を野放し状態にし、被害者を増やし続けることにつながります。これはまさに"その筋のプロ"として看過するわけにはいきません。
あえて「振り込め詐欺の容疑者とわたしとの、生々しいやりとりのCD」を付けたのも、現場の緊張感を直接感じていただきたいという強い思いがあったからです。「騙す方が"悪"」、「騙される方は"善"」という従来のくくりを容認していては、被害者も被害額も減ることはありません。これは被害者に対する初めての「告発本」といえるかもしれません。何とぞ上梓の趣旨をご理解いただけましたら幸いです。
2013年3月3日
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