近年、深刻な問題となっている発達障害児の増加について、出産に関わる現在の医療に問題があると、現場の医師が警鐘を鳴らし、予防策を示した。
3月12日、福岡市市民福祉プラザにて久保田産婦人科麻酔科医院、久保田史郎院長による講演「発達障害の原因と予防について~産婦人科医の立場から~」が行なわれた。同講演は、「平成24年度園長・主任保育士研修会」(社会福祉法人日本保育協会福岡市支部主催)の一環として行なわれたもの。
2011年現在、福岡市における自閉症等広汎性発達障害の診断数は、1,131人の新規受診者中647人(福岡市の調査による)。保育現場では、急増する発達障害児への対応が喫緊の課題となっている。この現状を踏まえ保育協会は、発達障害の原因解明と予防について研究・研鑽を続ける久保田院長を講師に招いた。
<予防策であった「産湯と乳母」>
久保田院長は、麻酔医の視点を持つ産婦人科医師として、早期新生児の重症黄疸や低血糖症に着目し、発達障害児の危険因子として研究。予防策として、出生直後の体温管理(保温)と、生後1時間目からの超早期混合栄養法を掲げている。
久保田院長は講演で、「昔、日本の産婆さんは産湯と乳母で、この予防策を実践していたと言えます」と語り、現代の出産現場には、これらの予防策を実践できる環境がないことを指摘した。「今の妊婦さんが望まれる自然分娩と完全母乳は、発達障害を生む要因をもあわせ持っています。出産現場を変えないと発達障害児はますます増えるでしょう。このことを、多くの方に知っていただき、発達障害児の増加に歯止めをかけたい」と、力説した。
聴講者からは、「良かれと思っていた自然分娩と完全母乳にこのようなリスクがあることに驚いた」という声があがった。また、発達障害のほかに示された、アトピーや乳幼児突然死症候群(SIDS)の原因と予防策についても、関心を寄せる姿が見られた。
久保田院長が、自身の研究結果を一般に公開したのは今回が始めて。これを機にさらに多くの人々に伝えていきたいと語る。発達障害の要因については諸説あるも、いまだ国や地方自治体レベルでの原因究明は進んでいない。すでに発達障害を抱える児童への支援を拡充するためにも増加を抑えることは急務であり、原因究明が望まれる。
なお、今回の講演で発表された内容は、久保田産婦人科麻酔科医院HPでも閲覧できる。
<プロフィール>
久保田 史郎(くぼた しろう)
1945年、佐賀県生まれ。70年、東邦大学医学部卒業後、九州大学医学部・麻酔科学教室、同大学同学部・産婦人科学教室を経て、福岡赤十字病院・産婦人科に勤務、83年4月、久保田産婦人科麻酔科医院を開業し、現在に至る。日本産婦人科学会専門医、麻酔科標榜医、日本超音波医学会認定超音波専門医。専門は周産期医療。
2000年、九州大学で「環境温度が赤ちゃんの体温調節機構に及ぼす影響」を演目に講演。以来、同テーマの追究をライフワークとして講演を続けている。著書に「THE OSAN―安産と予防医学―」がある。
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