疑惑の発端は、1隻のモーターボートだった。
2010年夏のことだった。森田町長が港に船を運んできた。長さ約4.5メートル、幅約1.8メートル。5トン未満。船外機で動かすモーターボートだ。
関係者らによれば、運んできたときには、町長の同級生の友人がいっしょだった。関係者は、森田町長から「親戚からもらったと聞いた」と話す。船を港に置くには、港湾使用許可が必要なほか、港を使う船の所有者らでつくる親睦団体「みなと会」に加入することになっている。森田町長は、ほどなく入会している。
その後、町長が船に乗っている姿も見られた。海に囲まれた町だけに、モーターボートを手に入れて、多忙な公務の合間にさぞかし船釣りやマリンレジャーを楽しんでいたことだろうと想像する。
ところが、昨年のある朝、モーターボートが港から忽然と消えていた。
後になってわかることだが、このモーターボートの元の所有者がオリエンタル商事の原幸一社長だった。
<原社長との関係をひた隠し>
一方、高レベル放射性廃棄物最終処分場問題は、2007年に町と町議会が「原子力発電環境整備機構」(ニューモ)の勉強会を開いた後、10年、一部町民が同処分場誘致に賛成する陳情が提出して再燃。これに対し反対団体が結成され、誘致反対の陳情も出され、町を二分する状態になっていた。町議会が福島原発事故後の11年3月、「(誘致の)具体的な動きもない」として、いずれの陳情も不採択とする結論を出した。
しかし、原発事故が収束していないように、「核のゴミ」処分場誘致問題も収束していなかった。
森田町長がこのモーターボートを手に入れた経緯と入手先について真っ赤なウソを述べていることが、調査報道サイト「HUNTER」で報じられ、「核のゴミ」処分場をめぐる贈収賄疑惑が明るみに出てきた。
モーターボートは10年6月、オリエンタル商事の原社長から森田町長に売買によって譲渡されたと、小型船舶登録原簿には記載されている(同年8月、変更登録)。ところが、町長は、4月の町長選挙での対立候補陣営の画策だとして、原社長から入手したことを否定したというのだ。
それがウソなのは、NET-IBが入手した小型船舶登録原簿の登録事項証明書から明らかだ。
小型船舶登録原簿というのは、小型船舶登録法に基づいて、船舶番号や船の大きさ(長さや幅)、所有者などが登録されたものである。レジャーボートなど20トン未満の船が対象で、自動車の登録と同様に、船舶も小型船舶登録原簿に登録されている。なお、登録事務は、日本小型船舶検査機構が国に代わって実施している。
すぐにばれるウソをついてまで、森田町長は、なぜ原社長との関係を隠そうとしたのか。「HUNTER」によると、知人に貸していたお金の代わりに取り上げたなどとウソを並べ立てた後、原社長から15万円で購入したと説明したという。無償譲渡や、市価よりも低い価格での購入は供与に当たる。
<町長「もう終わりましたから」>
取材のため、森田町長を町役場2階の町長室に訪ねた。
記者「高レベル放射性廃棄物処分場をめぐって、オリエンタル商事の原社長との関係をお聞きしたい。モーターボートをオリエンタル商事の原社長から入手したと一部報じられているが事実ですか?」
町長「もう終わりましたから」
記者「返したんですか?」
町長「違います」
その後、町長室を出た森田町長は、記者の質問に押し黙ったまま、駐車場に停めてあった車に乗り込んで去っていった。
「町長、お答えください」との呼びかけを振り切るまで、町長室を出てから約2分30秒。森田町長が唯一質問に答えたのは、「ノーコメントですか?」の問いに、「そうですね」と一言だけ。町長は、汚職疑惑を否定できなかった。
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