<経営会議(4)>
谷野は、
「まず第1号議案、第2号議案については特に異存はないと思いますが、宜しいですか」と声をかけると、全員「異議なし」の声が返って来た。
場内が静かになったのを見届けた谷野は、
「今までにお諮りしていますので、宜しいかと思います。それでは次に、第3号議案及び第4号議案について私の方から申し上げます。まず第3号議案ですが、皆さんにお配りしている資料には人数を入れておりませんが、改めて申し上げます。
第3号議案の『取締役選任の件』について、『取締役9名選任の件』として上程します。 その内容について申し上げます。今定時株主総会終結の時を以って任期満了となる取締役は、私、谷野を含めて、北野氏、川中氏、梅原氏、大島氏、木下氏、小林氏、古谷氏の8名ですが、この他に任期途中ではありますが、健康上の理由で栗野氏より辞任の願いが提出されております。栗野氏については辞任の意向を示されたため、その間私の方から何度も慰留に努めましたが、ご本人より『どうしても体調が芳しくないので、今後リハビリに専念して回復に努めたい』との強い申し出がありましたので、5月7日、正式にお受けすることにしました。従いまして退任取締役は9名となりますので、次に申し上げます9名を取締役候補としてお諮り致したいと思います。北野俊弘氏、川中隆史氏、梅原哲夫氏、大島俊之氏、木下秀男氏、小林辰彦氏、古谷政治氏、それに私谷野8名の再任と、新任取締役候補として、栗野会長と相談した結果、現渉外部長の古田康彦氏の9名をご提案申し上げます。ご審議の程宜しくお願い致します。以上です」
と述べた。
その谷野の提案に対して、すかさず隣の席から専務の沢谷が守旧派を代表して挙手し、
「私は対案を出させて頂きます。9名の取締役候補については、北野俊弘氏、川中隆史氏、梅原哲夫氏、大島俊之氏、木下秀男氏、小林辰彦氏、古谷政治氏、及び渉外部長の古田康彦氏、北部支店長の蔵元崇氏を提案致します。谷野頭取につきましては、過去2年間維新銀行のために不良債権の早期処理、財務体質の改善等に懸命に努めて頂きました。中期計画も出来あがり、当行の道筋をつけられたと思っています。この度は任期満了を期にご退任頂き、創業60年の節目でもありますので、次のステップを新体制で取り組み、後進に道を譲られては如何かと思います。加えて、栗野会長も体調を崩されて辞任を申し出ておられますので、谷野頭取共々顧問へのご就任をお願いするものであります。以上です」
と発言した。オブザーバーとして出席している相談役の谷本は、じっと目を閉じたまま沢谷の話を聞いていた。
※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。
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