"空きホテル"という言葉に初めて出くわしました。商店街関係の仕事、まちづくり関係の仕事で"空き店舗"にはいつも接していますが、"空きホテル"は初めて聞きました。この言葉を聞いたのは、2012年11月のことです。北海道の弟子屈町で開かれた「平成24年度てしかが観光塾」に参加した際の弟子屈町長徳永哲雄氏から発せられた言葉です。徳永町長はこの観光塾の塾長です。
弟子屈町は、道東の屈斜路湖と摩周湖に挟まれたところに位置し、川湯温泉で栄えた町です。先ごろ亡くなられた大鵬幸喜氏が少年時代を過ごした地であり、弟子屈町川湯相撲記念館もありました。この川湯温泉は、昔の映画『君の名は』で屈斜路湖周辺が撮影地となったことから、観光客が増加したという温泉で、昔ながらの典型的な団体対応の温泉街です。私が泊まったホテルもホテルとはいえ、和室、大部屋(ただし、個室)、大浴場、朝食バイキングの和風ホテルでした。
その温泉街が寂れに寂れています。"空きホテル"だらけというわけです。
バブル経済期を頂点とする団体観光(飲めや歌え、旅の恥はかき捨て、5分間観光といった言葉に象徴される旅行形態)から近年の個人旅行への移行に完全に立ち遅れた結果です。ちなみに北海道庁の観光統計から観光入込客数のデータを見ますと、バブル期の1990年には、弟子屈町は130万3,000人(延べ人数)の入込みがあったのが、直近データの11年度は72万8,000人と実に44%もの落ち込みです。同時期の北海道全体の落ち込みが1.8%にとどまっているのに比べるとその落ち込みのすさまじさがわかります。"空きホテル"だらけになるのもむべなるかな、です。
そのような状況を打破しようと弟子屈町では、観光を基軸にしたまちづくりで活躍する人材の育成を目的に、08年度に観光庁の「観光カリスマ塾」を開催し、その後、09年度からさらに内容を充実して「てしかが観光塾」を開催しています。この塾では、観光庁が認定している観光カリスマの1人である山田桂一郎氏(スイス ツェルマット、JTIC.SWISS代表)を副塾長に招いて内外からの参加者との勉強会、シンポジウム等を行なっています。今回の塾では、和歌山大学観光学部の学生が十数人参加していました。国立大学初の観光学部を持つ大学です。私は、そこの出口竜也教授から誘われて参加したというわけです。当日の講師には山田、出口両氏のほか、「デフレの正体」の著者藻谷浩介氏や北海道大学教授の石森秀三氏など、錚々たる講師陣でした。
そのなかから、我が国における観光学の提唱者とも言える北大石森教授の説明資料から北海道観光の現状等を紹介します。
□北海道観光は、行ってみたい旅行先ランキング(JTBF動向調査)で、常に1位を保持、2位は沖縄、3位はハワイ
□しかしながら、安売り観光の大地(日本一安い平均宿泊単価=全国平均11,900円、最高:北陸19,300円最低:北海道9,500円)
□宿泊施設の差別化ができておらず、過当競争→安売り競争へと
□バブル期に宿泊施設の増改築を行なうという経営の失敗
□北海道への入込客数の減少で稼働率低下→安売りに拍車がかかる
□入込客は2000年(約5,150万人)をピークにして滅少→09年:4,680万人
□夏季に集中(約50%)、冬季は約20%
□夏季に修学旅行も減少(最近の1位は沖縄)
□居住地別では関東が約42%でトップ、約8割がリピーター
□家族旅行が約51%、団体旅行は約11%
□パッケージツアー:2000年には43%→07年には22%
□観光消費額単価:1988年には68,400円→05年には60,800円
□今後は、LCC就航による新規需要の創出(北海道と関西の新たな関係性等)が見込める
なお、徳永弟子屈町長に筆者が「もしかして町長のルーツは福岡なのでは?」と尋ねましたら「そうです」とのこと。徳永という姓は筑後の姓ですよね。北海道は移住のまち。福岡との縁を感じさせていただきました。
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