<経営会議(6)>
古谷の発言を受けて専務の石野は、
「むしろ維新銀行は今からという時です。そうでしょう。不良債権を処理して、経営体質を改善して、新3カ年計画を作って、それを今から実行するわけでしょう。それを1期で辞めるということは、逆にいえば途中で投げ出すようなものです。皆さんは今からの体制、維新銀行は良くなると見ているわけですから、非常に異常事態なのです。社会的にみても、一般的に見ても、折角体制を作り直してやろうという時にわずか1期2年で辞める。株主に対しても、お客さんに対しても、また行員に対しても私たちは説明できないと思いますよ。どうしますか」
と問いかけた。
石野の発言が終わるのを待って、谷野は、
「私の意見を申し上げますと、先程沢谷専務は、『過去2年間維新銀行のために不良債権の早期処理、財務体質の改善等に懸命に努めていただいた。中期計画もでき、当行の道筋をつけられたと思っている』と言われ、また古谷取締役も『不良債権処理に全力で尽くし、栗野会長とともに先頭を切っていただいた。残念ながら起こりました不祥事にもコンプラ態勢を整備され、またリレバンもやられ、最後は中期計画まで作られた』と沢谷専務、古谷取締役とも、むしろ意見としては私に対してポジティブな評価をしていただいていると思います。それにもかかわらずお2人が敢えて私に退任を求めて来るというのは論理的に矛盾があり、私にとって一寸納得できないという気がします」
と言った。
その発言に古谷は、
「今までやられた谷野頭取の経営方針並びにやられたことも、年頭に言われたことも間違いないと思います。ただし、今から実行という段階で、今の営業店と本部の一体感をもって営業ができるだろうかということに疑義を感じております。ですからここで人心を一新、改めて新しい体制で実行するんだと、本部と営業店が一体で、その為には今の体制よりももっと良い体制ということで、私は沢谷専務案に賛成です」
と述べた。
この古谷の『今から先の経営に対する一体感に疑義がある』との発言は、谷野にとって到底納得できる退任理由ではなく、また改革派のメンバーを説得する理由にはならなかった。
しかし常務の北野は、
「私は今のポジティブな評価は間違いないと思いますが、将来に対する不安をものすごく私自身感じています。そういった意味で古谷取締役、沢谷専務がおっしゃるように、新しい体制でもってやる必要がある、今はその時期だと思っています」
と、守旧派内で打ち合わせた通り、古谷を擁護する見解を述べた。
※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。
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