<経営会議(7)>
今まで黙って話を聞いていた常務の吉沢も、隣に座っている沢谷専務の目配せを受けて、
「維新銀行も60年が過ぎたので、また70年に向けて大幅に、例えばトップが若返ることによって、維新銀行の将来を考えるという沢谷専務の考え方に賛成です」
と述べ、短い言葉ではあったが沢谷の意見に賛意を示し、守旧派の立場にいることを明確にした。
それを聞いた石野は、
「トップが若返る、若返るといって、どういうことを考えられているのかわかりませんが、銀行の頭取というのは、私は、今の年齢で全然問題ないと思います。結局地域の各界トップと渡り合うなど、いろいろなことがある。そのためにはやはり長い、ある程度の経験と、それから見識、こういうものを持ち合わせていないといけないと思います。いきなり若返るとかいうことは非常に不自然である。何よりもこれは不自然です。そう思われませんか」
と発言した。
石野の発言を引き継ぐように谷野は、
「若返ると言われますが、私はそんな年ではないし、地銀の頭取のなかでも私は若い方の1/3だと思います。それから一昨年、14年に私が替わった時には、確かに前頭取と15歳年齢差がありましたから、それは明らかに若返りかもしれません。しかし、若返りの基準というのは何を以って若返りの基準か、その辺が良くわかりかねるので、もう1つ説明をお願いしたいと思います」
と述べると、今まで聞き役に徹していた木下取締役が、
「先ほどからお話しをお聞きしていましたが、私としてはやはりどうも理由が納得できません。我々は少なからず谷本相談役の下でいろいろ教えを乞い、同じ精神の下に大同小異、今まで一致団結してきたわけです。それなのに、そんな理由で、今まで絹田頭取が25年、植木頭取が19年、谷本相談役が10年やられた頭取を、今の谷野頭取が何故1期2年で辞めなければいけないのか。この理由をはっきりさせなければいけない。 先程からの話では、後から取ってつけたような理由しか聞こえてきません。以上です」
と述べた。
大沢監査役が、
「まったく基本的なことですが、皆さんはポジィティブな評価で譲ってほしいというか、谷野頭取が自ら退いてほしいと言っておられるわけですね。ご本人はそういう気はないと言っておられる。一方動議に賛成の皆さんは、現頭取に大きな問題はないが、若返りのために退いてもらった方が良いという判断を主張されているわけです。しかしご本人がその気がないと言われたら、引き下がらなければおかしい。『何か問題があるから辞めて下さい』というのであれば私も理解できるが、今の話を聞いていると特に大きな問題はないが、70年に向かって新しい体制でおこないたいから『谷野頭取に退いて下さい』とおっしゃって、彼が『それでは退きましょう』と言えば良いのですが、『まだやる』と言えば、『そうですか』と言って引き下がるのが流れではないかと思うのですが」
と、退任を求める守旧派に大義名分がないことを監査役の立場を代表して問い糺した。
※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。
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