アメリカやカナダに対抗するかのように、ドイツの研究機関においても空気中の水蒸気を利用した造水機の実用化が進みつつある。シュツットガルトにあるIGBと呼ばれるバイオテクノロジーの研究所ではラゴス・イノベーションと呼ばれる民間企業と提携し、自動的に空気中から飲料水を生み出すメカニズムを開発した。
砂漠地帯など乾燥地においても空気中から飲料水を確保することができるため、その実用化が期待されている。湖や川、あるいは地下水や水源地がまったくない場所であっても、この機械は水を生み出すことができる。IGBではすでにイスラエルのネゲブ砂漠で実験を繰り返している。この砂漠地帯では大気中の湿度が年平均して64%であるため、1平方メートル四方の空間から11.5ミリリットルの水を安定的に確保することができるという。
「必要は発明の母」というが、今や世界各国で水不足を克服するための新たな発明の競争が始まっている。海水を淡水化する、あるいは汚染された水を浄化し再利用するといったこれまでの造水技術とは全く発想が異なる。地球上のあらゆる場所に公平かつ潤沢に存在する空気。この無限の資源から水を造りだすという開発レースが始まったのである。水の豊かな日本においては、これまで思いつかなかったアイディアかもしれない。
しかし、考えようによっては、これほど確実な水源地の確保につながる技術もないだろう。日本も海水の淡水化を可能にした膜技術では世界をリードしているものの、既存の技術の上に胡坐をかいていれば、こうした新しい技術革新の波に乗り遅れることにもなりかねない。
イザヤ・ベンダサン氏が「日本人は水と安全はタダで手に入ると思い込んでいる」と40数年前に指摘していたが、水を巡る争奪戦も過熱し始めた今日、我々は水を確保するためにはあらゆる可能性を探り続けねばなるまい。水資源獲得レースに終わりはないのである。水に恵まれている日本だが、地球温暖化の影響は免れない。これまでの常識に捕われない瑞々しい発想で、新たな技術開発に取り組む必要がありそうだ。サウジアラビアの砂漠のど真ん中で想像力を膨らませた。
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<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。現在、外務大臣政務官と東日本大震災復興対策本部員を兼任する。
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