福岡市に本社を構えるソフトメーカーの(株)システムソフト。昔からPCを触っていた者であれば、「ロードランナー」などの名作ゲームを世に送り出した同社を知らぬ者はいないだろう。ゲーム開発から出発し、現在では企業の業務システム開発に携わる同社代表取締役社長・吉尾春樹氏に、今後の戦略とIT業界の展望についてうかがった。
<企業統治と人材育成、課題は福岡部隊の活用>
――冒頭では、企業風土の違いについても言及されていました。企業統治や人材育成にも関わる問題ですが、合併をやる以上は避けて通れません。
吉尾 以前に4社合併をやったことがありますので、それに比べると規模は小さいかもしれませんね。それでも業務系と営業系の会社の統合ですから、仕事の進め方から社員の特性まで大きく違います。営業系の彼らはスピード感に溢れています。まずは動いて、問題を走りながら修正していくやり方ですが、我々はと言えば、事前の準備に時間をかけつつ動き出したら突き進むやり方です。webや基幹業務システムといった扱う分野が、そのまま互いの社員の特性に反映されているようです。
――特性の擦り合わせや今後の活用方法など、課題も展望も広がりますね。
吉尾 モノづくりの人間は、一緒にモノをつくってこそ互いの理解が深まるものです。そこにもう1つの課題である「福岡の人材活用」というテーマをミックスさせ、現在、天神(本社)と半蔵門(旧・パワーテクノロジー社)での合同プロジェクト構想が進行中です。
――主戦場は東京なのですね。それぞれの部門に活躍の場を与えていくのも経営者の役目です。人材の採用育成や活用は、どうされていますか。
吉尾 感覚的には8割近い仕事が首都圏に集中しているように感じますし、弊社の場合も仕事の多くは東京です。ただ、採用面では東京は厳しくなっています。「新3K」と呼ばれるIT業界に、若者が集まらなくなっているからです。これとは反対に、九州では優秀な人材が当社に集まってきてくれるのですが、東京勤務に馴染めない人も出てきます。発祥地の福岡を何とか残したいとの思いもありますし、福岡の部隊を活かすために社内でニアショワ(※本来は「近い外国」の意、IT業界では「地方での製作」を指す)的な活用を模索しています。技術や技術者を確保し、顧客にとって魅力的な企業であり続けるためにも、今後は外国人の採用が増える可能性もありますね。
<本質を求め続け、変わりゆく業界>
――激変のIT業界ですが、今後はどうなっていくとお考えですか。
吉尾 この点について、ITの専門家は不要になるという見方と、今後も必要とされるという見方がせめぎ合っています。たしかに、物事が洗練された合理的な方向に集約されていくことは間違いありません。たとえば、アマゾンの事例です。本を売るためにつくられた合理的な仕組みは、出版社から本屋、消費者に至る従来の枠組みを壊しつつあります。今後、本を売りたい人はアマゾンの仕組みに乗っかるでしょうし、従来から介在していた専門業者は減少していくでしょう。ただ、これを踏まえても、我々のような業務システムの開発に対する需要はなくならないと考えています。アマゾンの仕組みを使う人は、絶対にアマゾンを超えることはできませんし、企業が動けばシステムが必ず動きます。競争のなかで既存勢力を越える欲求が企業にある限り、ここを担う存在は不可欠なのです。
――今の流れは、異業種から大資本が参加し、既存の枠組みを壊していきます。従来のような同業者間での戦いではないため、攻めも守りもまったく違った方法が必要になってきます。
吉尾 そうであっても、企業が何かを伝えたい気持ちを持っているという本質的な点は変わりません。伝えたいことは商品にもあるし企業にもある。ここをどう伝えていくかがマーケティングであり、その裏側にあるのがシステムです。先ほどの合併は、追求した本質を理論的に提案するためのものなのです。その時々でやり方は違うでしょうが、要はどれほど強い信念を持つか、信念を共有できる企業をどこまで支えられるかが自己の存在意義を決めてしまいます。
――「APAMAN」が扱う不動産の物件情報は、ほかの不動産サイトにも並べられます。本質を見抜き、選ばれるべくして選ばれる地位を勝ち取ったからこそ、日本最大の不動産ネットワークに成長したはずです。
吉尾 アパマンさんの仕事は、マーケティングを学ぶうえで非常に参考になりました。不動産の場合、法律によって顧客は必ず店舗に足を運ぶ流れになっていますから、そこでの顧客満足度が本質的な勝負と言えます。「アパマンに来て良かった」と思ってもらえる手助けをするのが、我々システム側の役目です。逆に、先ほどのアマゾンの例では、店舗に行って陳列された商品を選んだ時点で品質が確定しますので、あとは値段と納期が勝負になってきます。問題は、店舗側が力を入れている接客対応やアフターサービスが、値段や納期を凌ぐだけの本質的な要素を持っているか否かという点でしょう。
――すべての話の焦点が、今回の合併話に結ばれているのですね。
吉尾 企業文化の克服など、向き合うべき課題は少なくありません。ですが、重なるところが少ないからこそ、無駄も少ない良い会社になれるはずです。私自身、大いに期待しています。
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<COMPANY INFORMATION>
所在地:福岡市中央区天神1-12-1
設 立:1979年9月
資本金:14億100万円
売上高:(12/9連結)14億9,983万円
<プロフィール>
吉尾 春樹(よしお はるき)
1960年6月生まれ。長崎県出身。県立長崎西高等学校から東京大学法学部を経て、83年4月に日本電気(NEC)入社。そこでの経験をもとに、92年7月に同社に転身。企画部長、エンジニアリング事業部長を経て、2005年12月から同社代表取締役社長。
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