"空きホテル"という言葉に象徴される北海道観光の現状について前回触れました。この"空きホテル"という言葉こそ使われないものの、旧態依然とした団体対応型の観光旅館、ホテルが時代に対応できずに客数減少に悩んでいる観光地は全国各地に見られるようです。
しかし、九州いや日本が誇るべき温泉リゾートとしての地位を確立しているのが大分県の由布院温泉でしょう。かつては奥別府と言われ、別府温泉とひとくくりにされつつあった由布院温泉ですが、別府温泉が隆盛を極めていた頃に奥別府であるがゆえに団体観光客向けの大型ホテルや歓楽街は整備されず、女性が行きたくなるようなまちづくりを行ない、個人旅行主体の時代の波に乗って独自の存在感を確立し、現在に至る成功を収めたことは皆さんご存知の通りでしょう。
折しも昨年12月に開催された「産学官交流研究会博多セミナー」において一般社団法人由布院温泉観光協会会長桑野和泉氏((株)玉の湯代表取締役社長)が「由布院の観光まちづくり」という講演を行ない、これに接する機会を得たので、この講演の要旨から弟子屈町川湯温泉と由布院温泉の彼我の違いを見てみることにします。
○別府温泉とひとくくりにされずに、「奥別府由布院」を逆手にとり、農家・農業と共生した温泉、決して温泉街にならないまちづくり発想を行なった。
○具体的には、1975年頃のサファリランドの建設計画、温泉マンション計画への反対活動。
○1971年ドイツへ視察を行ない、以後、毎年のように視察。「滞在型温泉保養基地」を目指すことになる。
○その結果、現在人口1万人の町(旧湯布院町)に年380万人の入込客がある。1日あたり約1万人だが、これは定住人口と交流人口が等しいということになる。また、入込客の7割が女性であることも当初の目論見通り(ただし、宿泊人数は、H18年の90万人が今、70万人へ減少 )。
○協会加盟宿泊施設は93施設あり、1施設平均14室と団体対応でないことは明らか。
○価格帯は、6,000円から6万円と幅広く、お互いがその価格帯を守って価格を落とさない努力を行なっている。
○この価格帯に応じて客層、目的が違うので競合、値崩れが起きない。
○60%がリピーター、10%が10回以上訪問とリピーターが多い。
○海外客は2~3%だが東アジアのお金持ちのリピーターが多い 。
○協会理事は30歳代と若く将来ヴィジョンを語ることができる。
○各種イベントを開催(牛喰い絶叫大会、映画祭等)
○1泊より2泊、3宿連泊の提案。多様な選択肢の連泊(価格帯の幅が広いのでこれが可能のようです)。
○質の高い空間、歩いて楽しいまち、アートのまちづくり→就業の促進→若者の定住促進につながる。
○まちの景観づくりの徹底(建物の高さ制限、はみ出し陳列の禁止、セットバックを行なう、声かけ禁止、試食・試飲禁止、車乗り入れ規制の実施等)。これが平成20年、市による景観計画の策定に。
○10年以上前から料理研究会を開催し、ホテルと農家の提携を行ない地産地消の実践を行なう(食の見える風景→風景の見える食)。
○この結果、客単価は、6,000円→8,000円へと上昇。
以上が由布院温泉の戦略、戦術です。この発想には、時代に流されない中谷健太郎氏や溝口薫平氏などの開拓者の確固としたまちづくりに関する哲学があったことはもちろんですが、観光客の意識や動向を的確に掴む、まさにマーケティング発想が発揮されていたことは言うまでもありません。
北海道弟子屈町を比較対象にしては申し訳ない気もしますが、時代の空気に流されない発想、将来を見る目、自分達が住むまちを愛し、持続的に発展する仕組みをつくること、そのような点に彼我の差があったように思われます。
しかし、弟子屈町も手をこまねいているわけではありません。観光推進団体である「てしかがえこまち推進協議会」を中心として地元の資源を活かした着地型観光や体験型観光推進を積極的に展開しています。その一例が㈱ツーリズムてしかがによる「摩周湖星紀行」です。これは無数の星を見ることを目的とした地元手づくり着地型観光の典型であり、プロが選ぶ『優秀着地型ツアー』にも選ばれています。また、このような「てしかがえこまち推進協議会」の活動は、第7回エコツーリズム大賞優秀賞を受賞しています。
弟子屈町も激しい地域間競争を生き抜くべく必死の努力をされています。今後の動向にご注目ください。
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