詐欺師は一度ひっかかった人を何度でもカモにする。これが彼らの鉄則である。一度でも被害に遭えば学習するだろうと思うのだが、学習しないのである。それどころか何度でも騙され大金を詐取されるのである。昨年末、短期間に２度にわたって、合計1,200万円だまし取られるという事件が起きた。場所は、東京池袋にあるサンシャインシティ（旧巣鴨プリズン）の裏通り。同じ男に、同じ場所で手渡している。帰宅後、息子に電話して詐欺事件が発覚するのだが、息子に強くいわれて渋々被害届を出している。泣き寝入りしたいというより、プライドが拒否させるのだ。
３年前の５月、わたしに再び同じ男から電話がかかってきた。今度は「携帯電話を壊した」という。正直に話すと、一瞬相手の話に引き込まれそうになった。それを踏みとどまらせたのは、「どこかで聞いたことのある声」だと思ったからだ。「あっ、来たな！」である。「詐欺師は同じ被害者を何度でも騙す」ことを知っていたからだ。わたしはそばにあった取材用の録音機のボタンをオンにした。それが『騙されたがる人たち 善人で身勝手なあなたへ』の付録に付けたCDである。付けた理由は、容疑者との息詰まる会話を聞いてほしい。このようにして容疑者の術中に嵌められていく、その様子をつぶさに体感していただきたいという思いからだ。
話を拙著に戻す。タイトルの「騙されたがる人たち 善人で身勝手なあなたへ」に違和感を覚える人も多いに違いない。この20年のあいだ、悪徳・詐欺商法は減るどころか、ますます猛威を振るっている。その原因を丹念にたどってみたところ、実は被害者といわれる人たちにも、問題行為が見え隠れするという意外な事実を得た。騙されたがっている被害者の顔がそこにあったのである。
たとえば、海外ロト（宝くじ）を扱う会社から、「当選しましたので、手続きをお願いします」という内容のDMに、疑いもせず同封された用紙に記入して送り返し、クレジットカードを悪用されるという事例。購入してもいないロトに当選するはずがないとは思わないのだ。「おめでとうございます。ご当選されましたので、○○まで商品を受け取りに来てください」という電話に、「ラッキー」を連発。さっそく出かけていき、強引に別の商品を購入する契約をさせられたという事例。両者とも住所や電話番号をどのようにして知り得たのかに疑問すら抱かない人たちが存在するという事実。
不特定多数の男性にメールを送りつけ、送り返してきた男性とデート。その後、男性を展示会などに誘い、高額な宝飾品や毛皮などを契約させ、ドロン。「デート商法」という詐欺商法にひっかかっても、「彼女が助かるのであれば、このままでいい」と被害届を出そうとしない男性。街頭で「いいものがタダでもらえるよ」という男の声に誘われ、高額な健康食品を買わされる高齢者。「タダほど高くつく」ことを十分承知している分別ある高齢者のはずが、である。
リーマンショック以降、超低金利時代の到来で、投資先がない状態が続いたからといって、安易に「和牛預託商法」に投資し、泣きを見る高齢者たち。「安愚楽牧場」のような事件が多発し、その都度「騙された」といって泣き崩れる愁嘆場をテレビで目撃しているはずなのに、またまたひっかかる人たち。
コラムニスト山本夏彦氏の「だまされたのは欲張ったからで、馬鹿だったからだというならわかるが、善人だったからだという」（『笑わぬでもなし』）。そう、従来の「騙す方は"悪"」、「騙される方は"善"」という構図を見直さなくてはならない。拙著のサブタイトル『善人で身勝手なあなたへ』はそのことを意味している。騙す方が悪いという発想だけでは何も解決しない。
次回は、具体的な事例を挙げて、「騙されたがる人たち」の実態を詳報したい。
＜プロフィール＞
大山眞人（おおやま まひと）
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』（文藝春秋）『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』（大和書房）『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい！」』（河出書房新社）『克って勝つー田村亮子を育てた男』（自由現代社）『取締役総務部長 奈良坂龍平』（讀賣新聞社）『悪徳商法』（文春新書）『団地が死んでいく』（平凡社新書）『騙されたがる人たち』（近著・講談社）など。
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