<経営会議(10)>
小林の発言に対して古谷取締役は、
「中期計画が出来上がり、実践の時期なのです。実践の時期に営業店と本部の一体感ができるのかということが、営業店を預かっている身からすると自信がない。今の体制より、より良い体制、中期計画が実践できる体制を目指すためにも、替えていきたいと思っています」
と述べると、常務の北野は、
「今、小林取締役がおっしゃったように、頭取さんが行員と良く接しているというお話がありましたが、行員側がどのように捉えているかということを考えた場合に、決して小林取締役がおっしゃるようなことばかりではないと思います。その辺で古谷取締役が言ったように、一体感を醸成するためには、少し改革をする必要があるということになると私は思います」
と、谷野頭取と行員との意思疎通は、必ずしもうまくいっていないのではないかと疑問の声を投げかけた。
すると改革派や守旧派を問わず出席している役員の多くは、『北野常務、それはまさしくあなた自身のことではないですか。ここでその話を持ち出すのはやぶ蛇では』と臍を噛んだ。
と言うのは、安芸本部長である北野は自らが人材を育てることはなく、人事部に有能な人材を要求しては足蹴にし、ことごとく潰しているのを知っているからだった。
古谷と北野の話を聞いた大沢監査役は、
「何か話が少しずれていると思うのですが、本部との一体感がないというのは具体的にどういうことですか。これは少なくとも2年前に取締役会で選んだ代表取締役を、皆さんの今までの話からすれば、実態は『解任』みたいなものです。そういうなかで、極めて曖昧模糊とした理由で退任を求めるなんて、これが世間に通用すると思いますか。古谷取締役は東京駐在ですから、大企業の取引をよく知っておられると思います。
こんな理由で、『はい』というトップがいれば別ですが、代表権を持つ頭取がまだ続けると言っているのに、一体感に不安があるとか、行員側がどう捉えているかとかの理由で退任を求めることはまったく論外です。そんなことでトップを辞めさせるというようなことが、世間で通用しますか」
と、諭すように話しかけた。
それに対して古谷は、
「実態は解任と同じとおっしゃいましたが、あくまでも任期満了でございます。基本はそうですし、一つ考えて頂きたいことは、営業店を預かっているものが全部動議に賛成しているとは言いませんけれども、動議を提案して賛成している者は全部営業店を預かっている者です。この感覚のずれを一体感がないという表現をしたのですが、この際任期満了でもありますので、『本部と営業店とが一体感を持った新しい体制』を作り上げたいのです」
と、谷野への退任要求は営業店サイドからの要望であることを強調した。
※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。
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