高経年ビルの活用と地域活性化を狙って2011年6月にオープンした「メルカート三番街」。クリエイターや学生が集い、まちづくりの新たなかたちとしても注目を集めつつある。しかし、12年12月、隣家からの出火によって被災を余儀なくされた。火災に負けてなるものかと、復旧と次の一手に奮闘する経営者達の取り組みにスポットを当ててみたい。
<日本最古のアーケード街通行量は11%増加>
高齢化と人口減少、折からの産業構造の変改によって、地盤沈下が叫ばれる北九州市。戦中戦後と高度経済成長期には、我が国の経済を屋台骨から支えた古の大都市だ。近年では「環境未来都市」として新機軸を打ち出し、大企業を中核とする地元産業界と行政が団結してさまざまな施策を講じてはいるものの、その成果は目を見張るものとは言いがたい。八幡や若松、戸畑といった各地に点在する商店街でも、テナントの未入居を示すシャッターが目立ち、新たな地域振興策が求められているのが現状だ。
しかし、局所的に見ると、商店主らのアイデアと行動力で元気を取り戻しつつある街並みもある。JR小倉駅のお膝元に位置する商店街――京町や魚町、旦過市場など、いくつかのブロックに分かれるこの地区でも、日本最古のアーケード街として知られる魚町銀天街は対前年比11%もの通行量の増加を実現した。起爆剤のひとつは、2012年5月にオープンした「クロスロード魚町」だろう。上部に大型駐車場を備え、下部フロアには飲食店や産直食料品売場が入居する市場風の商業施設は、ショッピングや憩いの場として主婦を中心に活況を呈している。「戦略的中心市街地商業等活性化事業」として公的な後押しも受け、まずは好調な滑り出しをきったと言えよう。
明るい店内の「クロスロード魚町」を後にして魚町銀天街に出ると、意外にも若者の姿が多いことに気付かされる。学生風の歩行者に加え、洒落た衣服に身を包んだクリエイター風の男女は、年配の歩行者が多い商店街を一風変わった趣に彩る。彼らが足を向ける施設、それが魚町のもう1つの起爆剤である「メルカート三番街」をはじめとした民間インキュベート施設群だ。インキュベート(incubate)とは「培養」を意味する英語で、主に起業家の育成を目的とした施設を意味する。北九州市では、小倉北区浅野のAIM(エイム)内に置かれた北九州テレワークセンターなどが知られているが、ほとんどが公的施設であり、純然たる民間のインキュベート施設は珍しい。この民間インキュベート施設に集う若者たちの自由で柔軟な活動が、魚町に活気を与える1つの大きな要因になっていることは疑いようがない。
しかし、12月19日の午後11時過ぎ、隣家からの出火が「メルカート三番街」の一部店舗に延焼。火が燃え移った「水玉食堂」は半焼により営業再開のメドが立たず、他の店舗も消火活動の影響で水に浸り、再開に時間を要する事態に追い込まれた。
<起業家を生み出す「メルカート三番街」>
ここで「メルカート三番街」をはじめとしたインキュベート施設の概要に触れてみたい。「メルカート三番街」は、小倉北区魚町3丁目のほぼ中央に位置する「中屋ビル」内に設けられている。魚町銀天街とサンロードの間の東西に横たわる中屋ビルは、地上8階、地下1階建。築50年を経た、かなりの高経年ビルだ。この中屋ビルのサンロード側1、2階部分を占めるのが、今回取り上げる「メルカート三番街」ということになる。賑やかな銀天街とは対照的に、落ち着いた雰囲気のサンロード。まち並みのなかにぼんやりと浮かび上がるその佇まいは、さしずめ昭和モダンの趣といったところだろうか。
中に入ると、通路を挟んで両脇に小さな店が7店舗ほど並び、まるで横町に迷い込んだかのような感覚を覚える。1階に入居するのは、フラワーショップやカフェテリア、雑貨屋に家具工房といった多様な店舗群。ミシンを置いたアトリエなどもあり、いずれも一見して若い起業家が経営する店であることが見て取れる。控え目に灯された通路の照明と、各店舗の窓から漏れる温かい色の光、かすかに聞こえる若者の歓談する声が、ちょっとした異世界の雰囲気を醸し出す。2階には、食堂と地元新聞社といったテナントと共に、地域の歴史文献が並ぶ資料室が配されており、1階と2階をつなぐらせん階段は施設全体にアクセントを加えている。
経営するのはいずれも45歳以下のクリエイターであり、ほとんどが初めて店を構える駆け出しの起業家達。起業の夢を抱きつつも踏み出せないでいた彼らの背中を押したもの、それが「メルカート三番街」のプロジェクトであり、魚町3丁目の再興を願う地元経営者という構図になる。開業当初、一階でカフェを営む女性は、「起業したいというぼんやりとした思いはありましたが、ここに来て皆さんに相談に乗ってもらううちに具体的な形になってきました。今起業しなければ一生できなかったと思います」と、「メルカート三番街」への感謝を口にしていた。
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