JR九州の豪華寝台列車「ななつ星in九州」の初運行(10月15日)へ向けて、準備が着々と進んでいる。「列車のクルーズ」(クルーズトレイン)という新しいコンセプトを持つ「ななつ星」の旅には、非日常の時間と空間、発見とくつろぎが待っている。製造中の車両、周遊コース、クルーサービスなど、開発秘話を含めて大公開する。
ななつ星は、列車の旅の魅力をふんだんに盛り込んだ大人の旅になる。車窓の景色の美しさ、豪華なしつらえ、おもてなしのサービス―どれもが最上級。鉄道事業本部クルーズトレイン本部長の古宮洋二氏は開口一番、「プレッシャーを感じています」。トワイライトエクスプレスやカシオペアを越えるのは当然、目指すのは「オリエント急行」を超える旅なのだから、のしかかるプレッシャーは想像以上だろう。3泊4日コースは、由布院、宮崎、鹿児島、阿蘇などを巡り、豪華列車の寝台個室で2泊、霧島温泉の高級旅館で1泊する。1泊2日コースは、長崎、阿蘇、由布院を巡り、豪華列車の寝台個室で1泊する。破格の豪華さが人気を呼び、第一期受付は平均7.27倍。1月4日から始まった第二期受付(申込は3月末まで)は話題を呼び、第一期を上回る好調ぶりだ。
なつかしい風景との出会い、再会が待っているのも特徴だ。「九州は、新婚旅行のとき行って以来です」。旅行説明会では、こんな声が聞かれるという。応募者の平均年齢は約58歳。「狙っていた層でしたか?」の問いに、古宮本部長は「予想通りかな」とにやり。「リタイヤリッチという言葉があるそうですが、一線を退かれた60代、65歳前後をメインターゲットに思っていた」と言う。今60代の世代の青春時代は、旧国鉄の「ディスカバー・ジャパン」キャンペーンの真っ只中であり、女性ファッション雑誌『anan』『nonno』の特集記事を見て九州を旅行した若い女性も多かった。また、南九州が新婚旅行ブームに沸いた時期にあたる。当時、新婚旅行は「一生に一度の贅沢」とされ、ピーク時には、その年に結婚した新婚カップルの3分の1が宮崎を訪れた。
つくりこまれた車両のぬくもりとやさしさが乗客を迎えてくれるのは間違いない。デザイナーは、800系九州新幹線や787系特急「つばめ」、883系「ソニック」などを手がけた水戸岡鋭治氏だからだ。新造の専用車両を製造中だ。7両編成(機関車を除く)のうち4両にスイートを3部屋づつ配置し、最後尾(7号車)には特別なデラックススイート2室。合計14室の「走る豪華ホテル」になる。そして、JR九州に食堂車がついに復活する。水戸岡鋭治氏が1992年の787系特急「つばめ」以来ずっとこだわり続け、今回は唐池恒二社長が列車内で調理し食事を提供することを強く求め、社内での激論の末、実現する。いま料理のメニューが最後の詰めに入っている。
ぼーっと過ごすのも旅の楽しみの1つ。日常に区切りをつくってあげることで生まれる時間だ。リラックスして、車窓に流れる景色を見ながら、時間に身を任すもよし。また、ななつ星は、目的地へ向かうだけの豪華列車ではない。魅力にあふれた九州をめぐる。九州には、食あり、自然あり、文化・歴史あり。由布院や宮崎、鹿児島などの停車駅では、「選べるプラン」を用意。散策や観光、薩摩焼の絵付け体験を楽しめる。
しっとり落ち着いたピアノの生演奏も用意される予定だ。1号車のラウンジカーでは、ディナーの後、バーがオープンし、1列車定員30名の選ばれた乗客が集う広場になる。「列車のクルーズ」だからできる「走る社交場」である。ディナーの後の1日の締めくくりに見る夜行の眺めも寝台列車ならでは。パノラマの車窓から見える星空を見ながら、ななつ星の旅は続く。
次回から、JR九州鉄道事業本部クルーズトレイン本部長の古宮洋二氏へのインタビューを交えて、開発秘話を大公開しながら、ななつ星を紙上で再現する。
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