＜列車は単なる移動手段ではない＞
　「田舎の鉄道会社ですので、私たちがいつも言っているのは、列車は単なる移動手段ではないということです」と古宮洋二・クルーズトレイン本部長は語る。
　「我々の観光列車は、乗ることだけで楽しくなる、乗ることが目的なるものをつくろうということを、ずっと、みんなで話しながらやっています。最終的には、九州にたくさんのお客さまに来ていただいて、この『クルーズ・トレイン　ななつ星in九州』は定員30名ですが、九州がどんどん栄えていくのが一番の目的です。そのために、名称も『ななつ星』だけでなく、九州を世界にＰＲしていくんだとの想いから、『in九州』を付けた」

　ななつ星の「九州を周遊する」という発想には、ＪＲ九州の"遺伝子"が働いている。国鉄分割民営化で発足したＪＲ各社のなかで、赤字必至の３島会社の１つだった。車両は劣悪・老朽化、過疎地を抱え乗客数は低迷、自動車・バスとの競合も激しい。そのなかからこれまで大胆な改革で九州の鉄道を変貌させた。
　初運行まで約200日、試運転やクルーの実地訓練を考えると実質150日を切った。

＜一番の苦労は、車両の長さ＞
　では、伝説の豪華列車オリエント急行を超えるといわれる「ななつ星」の完成予想を紙上で再現していこう。

　１号車がラウンジカー、ここは食事の時間以外は、昼は休息場、夜はバータイムになる「走る社交場」。ピアノの生演奏も予定している。２号車はダイニングカー。３号車から７号車が、客室車両で、３～６号車に３室ずつスイート（定員２名）を配置。７号車は、デラックス（ＤＸ）スイートが２部屋のみという豪華列車のなかでも最上の空間だ。最後尾のＤＸスイートは、後方の部屋から流れる景色をパノラマで独り占めできる（ただし、旅の途中で車両の進行方向が変わるため、常に最後尾とは限らず、逆にラウンジカーが最後尾となり、乗客のみんなにパノラマの眺めが開放される）。

　車両で１番苦労したのは、まず編成する車両の数、車両全体の長さだったという。

　――名だたる豪華列車があるなかで、「ななつ星」は絵を見ただけでぜひ乗ってみたいとわくわくしますね。車両で１番苦労したことは？

　古宮本部長　「オリエント急行」と比べて制約が１番違いましたのは長さが限定されたことです。オリエントは、20何両、長さ400メートルという列車です。しかし、九州内は山間部に行くと制約が多くて、そんな長さの列車は走れません。検討した結果、７両編成、機関車を入れて８両、約160メートルが限界でした。コースを選ぶときに九州の路線のどこでも走れるように考えたわけですが、実は、設備改良にものすごく投資をしています。いわゆるローカル線に行きますと、昼間は１両２両で走っているエリアが多いので、この"長もの"を走らせるために、設備の改良に取り掛かっています。

　――長さ160メートルは限界ですか。

　古宮本部長　それ以上になると、入らない駅があったりするので、どうにもなりません。社長からは「もう１両増やせないか」という話があったんですが、「勘弁してください」と（笑）。

＜車両新造中、完成は夏頃　機関車は「DF200」ベース＞
　「160メートル・７両編成（機関車を入れて８両）」という制約はかなりきつい。トワイライトでも、電動車を含め10両編成、カシオペアは12両ある。「走るホテル」「走る社交場」「走るレストラン」として、オリエントを超えるため、家具や調度品というパーツ、デザインにこだわっただけではなく、居心地の良い空間を生み出すために、配置に知恵を絞り抜いたのが「ななつ星」だ。
　車両は、日立製作所笠戸事業所（山口県下松市）で基礎を製造し、小倉総合車両センターで製造中。機関車は、ＪＲ貨物が北海道エリアで使用しているディーゼル機関車「DF200」をベースに完全新造。外観は「ななつ星」にふさわしいオリジナルとなる。全８両の完成は夏頃、その後、訓練運転等を予定している。

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