(株)データ・マックスでは、3月7日から同14日まで、福岡県で事業を行なう企業を対象に、安倍政権の経済政策「アベノミクス」への意識調査を実施。約80社から回答を得た結果、87.3%が「アベノミクス」に期待していることがわかった。このほかの政治課題に関する意識も含めて以下、結果を報告する。
<最も期待が大きい、3本目の矢・成長戦略>
昨年末の衆議院議員総選挙で、自民党は294議席を獲得する圧倒的勝利で民主党から政権を奪還した。自民党総裁であった安倍晋三氏は、2007年9月以来、5年3カ月ぶりに首相へ復帰。安倍新内閣が12月26日に発足した。そして、安倍首相は、経済政策に専念するとして、金融緩和、財政出動、成長戦略を柱とした経済政策、いわゆる「アベノミクス」を打ち出した。
政権交代という変化への期待もあって、実行される政策の具体的中身が示されないうちから、円安株高は進んだ。東京外国為替市場の円相場は、安倍新内閣が発足した12月26日午前で1ドル=85円台に下落。東京株式市場・日経平均株価は、同日の終値で1万230.36円と、民主党政権下であった2012年、一時1ドル=77円台をつけた円が急落し、1万円台を切っていた平均株価が上昇した。
そして、期待の後押しを受け、「消費者物価の2%上昇」というインフレターゲットを掲げた1本目の矢・金融緩和により、円は90円台、株価は1万2,000円台をうかがう勢いとなった。2本目の矢・財政出動では、過去最大となった一般会計92兆6,000億円の新年度予算案に公共事業約5.3兆円を盛り込み、特別会計・復興予算に約4.4兆円が計上された。
3本目の矢・成長戦略については、まだ中身が見えないところではあるが、新政権発足から約3カ月、この間を福岡県で事業を行なう企業は、どのように見ているだろうか。
弊社が実施した意識調査では、87.3%が「期待している」と回答(表1)。金融緩和、財政出動、成長戦略について、それぞれ「期待する」と答えた割合は、順に45.6%、39.2%、83.5%(表2)。まだ具体的内容が示されていない成長戦略が、他の2つに大きな差をつけるかたちとなった。
すでに期待している各業種のメリットは、「景気回復にともなう売上増」(サービス)、「円安株高による経済成長を通じての売上拡大」(食品製造)、「仕事量の増加。受注単価増」(金物製造)、「株価上昇にともなう景気回復」(リース)、「建築・土木への投資活性化による金属製品の需要増」(金属加工)など。
一方で、危惧されるデメリットについては、「土地・原材料の高騰で設備投資が過大に」(サービス)、「輸入価格の上昇によるコスト増」(食品製造)、「急激な円高による物価高騰」(リース)など。また、「物価と所得の上昇にタイムラグがあり、一時的に厳しい局面になる。弱肉強食の色が強く出る可能性がある」(建設)といった意見もあった。
成長戦略については、「物価上昇により、賃金の上昇と雇用促進がなければ国民が苦しむことになる。成長戦略が中長期的に必要」(会計士)、「日本の優秀な技術力を活かし、付加価値の高い先端産業を発展させなければ、日本はジリ貧に陥ってしまう。デフレ対策、TPP交渉参加などを確実に早く決定し、世界からの投資を呼び込んでもらいたい」(流通)、「八方塞がりのなかで、政策としては期待しているが、単なるマネーゲームの再来を危惧している。結局、少子高齢化の成熟社会となる日本には、従前の政策では再興が難しいと考える。やはり東南アジアに目を向けた国際協調に注力すべきと考える」(建設)といった意見が寄せられた。
ここで、「アベノミクス」に対しての懐疑的な意見を紹介する。
「アベノミクスにより円安株高になったわけではなく、複数要因の1つにすぎない。欧州危機が再燃すれば元に戻る。景気は『気』なので現在のプラス志向が加速するかもしれない。今現在を瞬間的に見ると、輸出産業と投資機関だけがメリットを享受できる」(サービス)。
「現在は円安株高となっているが、実体経済はともなっておらず、数カ月はミニバブルが続くかもしれないが、中長期的には弾けるだろう。しがらみの強い自民党が規制緩和などの改革ができるとは到底思えない。これまで来た道をまた繰り返すだけ」(その他)。
「金融庁が竹中平蔵時代に策定した中小企業を含む企業格付を廃止しなければ、銀行も企業も金融に関し、手かせ足かせになっており、日銀の金融緩和をしても実効は少ない」(製造)。
以上、意識調査の結果を踏まえると、スタートして間もないこともあり、現時点では、実感をともなわない期待のみが先行しているように思える。金融緩和と財政出動が国益に結びつく結果になるには、「成長戦略」次第という見方が強いと言えるだろう。
「アベノミクス」の成果を決定づける成長戦略であるが、昨年末の衆院選で提示された自民党の政権公約には、「日本経済再生本部に『産業競争力会議』を設置し、成長産業の育成に向けたターゲティングポリシーを推進します」とある。「産業競争力会議」は、安倍首相を議長として、1月23日に1回目の会議を開催。その際、「成長戦略の戦略分野の特定については当面4点、まず1として国民の健康寿命の延伸、2点目といたしましてはクリーンかつ経済的なエネルギー需給の実現、3として安全・便利で経済的な次世代インフラの構築、4点目として世界を惹きつける地域資源で稼いでいく」(大臣記者会見要旨)という方向性が示された。
そして、3回目の会議(2月26日)では、TPP交渉参加が議題に。3月15日に開かれた4回目の会議では、「成長戦略に期待される政策効果」として、「将来への投資促進(イノベーション、人材)、生産性向上」「産業の新陳代謝の推進、開業率拡大」「所得・雇用の着実な拡大、国民全員が成長の果実を実感できること」「グローバル化の推進」「課題解決型イノベーション、高齢化に対応した社会の推進」などが議題に挙がっている。今後は、国際競争力の強化を視野に入れ、国による規制緩和、制度改革などの環境整備についても話し合われるという。同会議を経てつくられる3本目の矢・成長戦略は、どのようなものになるのだろうか――。
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