<経営会議(13)>
大沢監査役は、
「沢谷専務が不祥事件でお客様より責任はどうなっているのかという声があると言われましたが、それはもう少し具体的に言わないと、あなたがそう感じているというだけの問題かもしれないし、少なくともトップの再任を拒否するというからには、もう少し具体性をもった説明が必要です。
不祥事件に対して責任を取っていないということが退任を求める理由なのですか。もしそういう曖昧な理由で、トップの再任を拒否するというようなことであれば、それこそ極めて問題があると思います。それと風通しが悪いとか、ものが言えないとか、店長が委縮しているとかも同じことです。皆さんが今まで谷野頭取の業務上の言動などについて、これは辞めていただかなければならない問題と認識するようなことがあれば、取締役会で言うべきです。それがあなた方の責任です。
あなた方はその為に株主の負託を受け取締役として取締役会に出て、そういう問題を提起する責任を負っているのです。今までそういう問題提起を一切せずに、今ここに来てそういうことを急に言いだすのは、これはまったく筋が通らない。これは基本的におかしい」
と指摘した。
すると吉沢常務が、
「再任を拒否する理由がはっきりしないと言われますが、はっきりしないと言って、それは誰に公表するわけですか。取締役会であるいは経営会議で決めたことであり、いちいち再任拒否した理由を対外的に言う必要はないと思います」
と、沢谷に替わって意見を述べた。
それに対して大沢は、
「それはそうですが、しかし本人は辞めないと言っているのに、あなたたちによって再任を拒否される訳ですから、当然に説明する義務があります」
と、諭すように話しかけた。
その言葉に吉沢は、
「だから先程から申し上げていますように、60周年が無事に終えることができました。記念配当もできるようになりました。だからこれを機に若手を中心に一体となって新3カ年計画を実行していこうではないか、そういうことを先程から言っているわけで、別にそれが理由にならないというわけではないと思います」
と、強い口調で反論をすると、今まで黙っていた常務の川中がおもむろに挙手し、
「私も吉沢常務と同意見です」
と話し、守旧派の一員としての意思表示を明確に表明した。
2人の発言を受けて意を決したかのように専務の沢谷は、
「ここではまだ言っておりませんでしたが、もう大沢監査役とはこの間、2時間半かけていろいろとお話を致しました。また谷野頭取にも2度お会いして、いろいろお話をしているのは事実です。その時再任を辞退していただきたいということもお話しております。自分は聞いていないと言われますが、現実には何度も申し上げているのは事実です」
と述べ、既に谷野と大沢に、谷野の退任を迫っていたことを明らかにした。
※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。
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