ウォルマート本体の業績は順調だ。2013年1月期の売上高(営業収益)は4,691億ドル(42兆2,190億円=1ドル90円換算)と5.0%増加した。米国内既存店が1.8%増と好調だった(米国全体では3.9%増)ことに加え、海外部門が7.4%伸びたことによる。
販管費を4.2%増と増収率を下回る伸びに抑え、営業利益は278億ドルと4.7%増となった。売上高営業利益率は5.92%で前年度の5.94%からやや低下した。マイク・デュークCEO(最高経営責任者)は「第4四半期も堅調で良い1年だった。チームとして成し遂げたことを誇りに思う」とのコメントを発表した。
ウォルマートはさまざまな業態の流通企業がひしめき競争の激しい米国市場で2位以下を大きく引き離すダントツの存在。前年度決算で11.5%増と2ケタの増収率に乗せ、2位に浮上したコストコに5倍近い差を付ける。その巨大な存在感のゆえに「低賃金」「従業員の社会保険を負担せず税金に肩代わりさせている」「製造業労働者の職を奪う」などの批判も浴びてきた。ウォルマート1社だけで米国の対中貿易赤字の1割を占める。
<コスト負担は増加>
1月中旬発行の米ニューズウィーク誌は、勤続13年で時給12ドル40セント(約1,100円)で働く50代のパート女性がフルタイマーの要望を出しているが、認められず、会社側と交渉のため労働組合づくりに奔走している姿を取り上げている(ウォルマートは創立以来労組がない)。コメントを求められたウォルマート広報は、「フルタイマーの比率は同業者より高く、離職率は同業者より低い」と反論している。
ウォルマートは社会保険を払っていないとの批判に応え、従業員の待遇改善に取り組んできた。この結果、03年度には16.8%だった売上高販管費率は上昇を続け、10年1月期には過去最高の19.52%を記録。その後はやや低下し13年度は18.94%と前年度から0.12ポイント改善し19%を切った。
米国内だけで140万人を雇用する巨大組織に対し、今後も厳しい目が注がれ、それがコスト負担になって跳ね返ることが予想される。前述のニューズウィーク誌は同じ記事のなかで、昨年末バングラデシュの委託工場で100人以上が死去した火災事故に関し、ウォルマートは工場の安全設備改善のための金を支払うことを拒否していたと報じている(ウォルマートは「(要求された)費用が高すぎた」とコメント)。
<最大の強敵アマゾン>
ウォルマートが直面する最大の課題は、インターネット通販への対応だ。
独走するかと思われたウォルマートの強力なライバルとして近年急速にのし上がってきたのが、ネット通販のアマゾン・ドット・コム。12年12月期は前期比27%増の610億9,300万ドル(5兆5,800億円)を売り上げ、全米小売ランキングの7位に躍り出た。アマゾンは95年会社設立で、ネットで受注した商品を大型物流センターから自宅に配送する独自のビジネスモデルで快進撃を続けている。日本の楽天と違い、自社で商品を仕入れ自社で販売する。低価格も消費者の支持を得た理由で、米国の調査会社によると、ウォルマートより平均して10%前後安いと言われる。
米国の調査会社によると、昨年のクリスマス商戦ではネット経由の販売が40%を占めた。タブレットやスマートフォンの浸透で気軽にネットで注文できるようになったことが市場拡大に拍車をかけている。客はリアル店舗の店頭でスマホを取り出し、アマゾンと店頭商品の価格を比べる光景が当たり前になっている。
ウォルマートはアマゾンに対抗するため、昨年のクリスマス商戦では自社ウェブサイトで1日限定の"最低価格保証セール"を実施した。他社より高い場合はその分値引くという試みだ。一方で、実店舗を持つメリットを活用し、スマホから欲しい商品が最寄りのどの店舗でどの売場にあり、価格がいくらかをリアルタイムで検索できるシステムを開発するなど、新手の対抗策にも着手している。デュークCEOは前期決算発表時のコメントで、「Eコマースと海外事業に投資を集中させる」と表明した。
店舗を持たないネット小売り業者は、リアル店舗業者よりコストが低いと言われる。アマゾンなどネット小売りは、バイイングパワーを背景に低価格を売り物にしてきたウォルマートの存立基盤を揺るがす存在になろうとしている。
<第3の柱は食品スーパー>
実店舗でのウォルマートの新たな戦略は、「ウォルマート・マーケット」と呼ぶ小型の食品スーパー(SM)の展開。ディスカウントストア(DS)と、これに生鮮を併設したスーパーセンター(SuC)に次ぐ新たな業態に位置付ける。店舗面積は3,000~4,000m2で、食品を主力に生活必需品に商品を絞っている。前期末で約80店あり、今期は100~120店を出す。DSとスーパーセンターではカバーできない小型商圏を対象にする。ウォルマートは2年前からこれよりさらに小型の「ウォルマート・エクスプレス」の展開にも乗り出している。SuCの出店余地が狭まっていることから、小型店にシフトしていく考えだ。
国内では西友が前期の7店から今期は5店を出店する。いずれもSMで、東京都江戸川、同東久留米、仙台市、神戸市で新店を出すほか、居抜きも活用する。九州は出店計画にない模様。
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