<陸自配備見直しも>
政府(防衛省)による与那国島(沖縄県与那国町)への陸上自衛隊「沿岸監視部隊」配備に向けた用地26haの取得は、当面断念せざるを得ない情勢となった(産経新聞3月20日付)。断念の理由は、地代として10億円を要求する町側に対し、防衛省の提示額は最大でも1億5,000万円と隔たりが大きいためだ。
防衛省は、平成24年度予算で、与那国島への陸自配備に約10億円を計上。この金額を根拠に、外間守吉町長は「町民は地代が10億円と認識している」と主張。防衛省側は測量調査や移転補償費などが10億円のなかには含まれており、地代は最大でも1億5,000万円しか払えないとしている。
今後、防衛省は賃貸借契約に切り替えて、金額交渉をする方針だが、外間町長は賃貸借契約の場合でも、配備の「代償(迷惑料)」として10億円の支払いを要求している。これを受けて、小野寺五典防衛大臣は3月26日の記者会見で、配備計画の見直しを示唆した。
与那国島で用地取得につまずけば、今後、宮古、石垣島への陸自「警備部隊」配備に伴う用地所得にも支障をきたす恐れがでてくる。そうなれば、南西諸島防衛の戦略の見直しを迫られることになる。
<離島の活性化にもつながる陸自配備>
現在、南西諸島は陸上自衛隊が常駐していない空白地帯となっているが、与那国島にいたっては、武器といえば、駐在所の警察官の拳銃2丁だけしかない。武装した中国人が海岸から不法上陸してきた場合、このままでは島民を守ることは到底できない。
陸自が与那国島に配備されれば、島民の安全確保だけでなく、過疎化の一部解消や、長期的に10億円以上の経済効果が見込めるはずであり、地代に関して、外間町長をはじめとする町側は、防衛省の提示額を受け入れるべきだ。
外間町長は前回(平成21年8月)実施された町長選挙で、陸自誘致を選挙公約に掲げて当選した。町長は公約の実現のためにも、陸自配備に向けての防衛省との条件闘争をやめるべきである。
<中国にとって日本の離島は魅力が満載>
日本列島は、本州、北海道、四国、九州(沖縄本島も含む)に加えて、礼文島、八丈島、大島、石垣島、与那国島など、周囲100メートル以上の島嶼6,852から構成されている。そのなかでも住民登録が出来る離島の数は421。これらの離島は、インフラ(電気・ガス・水道)が島内すべてにいきわたり、道路や港湾も整備されている。空港がある離島もある。
与那国島などは、インフラ、道路、港湾、空港のすべてが整っており、中国からすれば、欲しくてたまらない島の1つだろう。さらに踏み込んだ表現をすれば、中国にとって「不沈島(不沈空母))と同じぐらい価値のある島が与那国島なのである。日本にとっても、国境を守る(監視する)上で重要な島であり、今まで、陸自が配備されていなかったことのほうが不思議なぐらいだ。
<中国の長期的意図を理解せよ>
中国が狙っているのは、尖閣諸島だけではない。中国の南シナ海での行動パターンを研究すれば、尖閣諸島の次は、与那国島をはじめとする南西諸島に点在する離島が標的になるということを、我々国民は認識しておく必要がある。
<プロフィール>
濱口 和久 (はまぐち かずひさ)
昭和43年熊本県菊池市生まれ。防衛大学校材料物性工学科卒業。陸上自衛隊、舛添政治経済研究所、民主党本部幹事長室副部長、栃木市首席政策監などを経て、テイケイ株式会社常務取締役、国際地政学研究所研究員、日本政策研究センター研究員、日本文化チャンネル桜「防人の道 今日の自衛隊」キャスター、拓殖大学客員教授を務める。平成16年3月に竹島に本籍を移す。今年3月31日付でテイケイ株式会社を退職し、日本防災士機構認証研修機関の株式会社防災士研修センター常務取締役に就任した。『思城居(おもしろい)』(東京コラボ)、『祖国を誇りに思う心』(ハーベスト出版)などの著書のほかに、安全保障、領土・領海問題、日本の城郭についての論文多数。5月31日に新刊「だれが日本の領土を守るのか?」(たちばな出版、現在第4版)が発売された。 公式HPはコチラ。
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