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火災被害のメルカート三番街燈し続けたい魚町の灯(後)
発信!北九州
2013年3月27日 14:10

 高経年ビルの活用と地域活性化を狙って2011年6月にオープンした「メルカート三番街」。クリエイターや学生が集い、まちづくりの新たなかたちとしても注目を集めつつある。しかし、12年12月、隣家からの出火によって被災を余儀なくされた。火災に負けてなるものかと、復旧と次の一手に奮闘する経営者達の取り組みにスポットを当ててみたい。

<若者と商店街、双方の願いを体現>
mercato1.jpg 開業から1年を経た12年6月、「メルカート三番街」の起業家達は、1年間の経営を振り返り、その思いをまとめた動画をネット上にアップした。アトリエ経営者は、イベントやコラボ企画の思い出に加え、機会を与えてくれた「メルカート三番街」への感謝を語り、雑貨店を開業した別の女性経営者は、今後の事業展望を口にした。デザインユニットを手がける男性が「人が集まり、そこから化学反応が起こっていく」と語ったように、「メルカート三番街」は、単に小規模な店が集まっただけの場ではない。
 12月のビル火災の直後、軽微な被害で済んだ店舗の1つが、早々に店を再開させている。すぐ脇には焼け落ちた瓦礫が山と詰まれており、スプリンクラーが作動した影響で店内も無傷ではなかったはずだ。「誰かが店を開けて、周囲の心配を解いてもらう」「被災した仲間を勇気付ける」、そんな意味合いから早期の再開に踏み切ったと周辺関係者は語ってくれた。築50年のビルに設けられたビジネスの実験場は、起業家たちが机を並べる「学校」としての機能を徐々に現実化させつつある。

 ところで、先に挙げた動画を見てもらえばわかるのだが、ここで活躍する起業家達は、年長者でも40代半ばの若手に限られている。これは形式的には、当初の起業家募集の際、「45歳以下のクリエイターであること」という要綱が付されたことに起因している。北九州市は100万人近い人口を抱える大都市であるにもかかわらず、「若者が活躍できる場が少ない」という評価をよく耳にする。都市の成り立ち自体が製鉄業や重化学工業に由来し、早期に成熟を遂げた反面、大企業や古参企業中心の地域経済となっていることが、若手や新参者にとって居心地の悪さを感じさせるのだろう。
 それだけに、若手起業家だけが集まる「メルカート三番街」のような施設は、彼らにとって貴重な場所といえる。逆に、高齢化や後継者不足に悩む商店街は、若い力を渇望していた。「古いビルに新しい価値を見出す発想に、真っ先に理解を示してくれたのも、若者達だった」(梯氏)との意見に見られるように、魚町銀天街という日本最古のアーケード街に若者だけを対象としたインキュベート施設が姿を現した一連の経緯は、実質的には、若者と商店街の双方が待ち望んでいた必然の結果であったのかもしれない。それだけに、双方の思いを実現させるために一肌脱いだ中屋興産の取り組みは、高く評価されるべきだろう。

<波及する「家守構想」>
 ボランティア的な要素の強い「メルカート三番街」であるが、民間事業である以上、採算性を無視することは妥当でないだろう。この点につき梯氏は「概ね3年で、当初の投資を回収できる見通しが立った」と語る。「メルカート三番街」に続き、矢継ぎ早に打ち出された「フォルム三番街」(シェアオフィスと文化発信の複合スペース)や「ポポラート三番街」(各種工芸作家の販売スペースを中心とした文化交流拠点)との相乗効果で、集客力が高まったことが要因として考えられる。

 同ビルの事業的な成功は、経緯を見守っていた周囲の評価を好転させ、地域ぐるみの取り組みに発展する様相を見せている。12年4月には、「メルカート三番街」の立役者の1人である嶋田洋平氏を代表として、(株)北九州家守舎が設立された。北九州市内の遊休不動産を活用したエリアマネジメントを目的とする同社は、先の成功を背景に、すでに複数の施設の再生に着手しており、10月にリニューアルしたばかりの「三木屋」(魚町3丁目)をはじめとした再生案件の今後に期待が集まる。現代の家守となる決意を固めたオーナーに共通するもの、それは「30年後も歩いて楽しい魚町であって欲しい」との郷土愛だ。
 地域的な動きの活発化によって、行政も後押しに乗り出しつつある。13年4月には、北九州市立大など市内の9大学が共同で、学外活動拠点「まちなかESDセンター」を中屋ビル内に設けることになり、開設に際して北橋健治北九州市長は「オール北九州で応援する」とのコメントを残した。ESDとは、持続可能な開発のための教育という意味であり、学生を地域の課題解決に取り組ませることで、より実践的な教育を通じて人材育成を図ろうというもの。「メルカート三番街」や「フォルム三番街」では、従来から起業家と学生の交流を積極的に促していたことからすれば、ここに行政の強力な後押しが加わる格好になる。
 「フォルム三番街」のツイッター上には、誰が書き込んだものなのか、「梯さんは、魚町の『かけはし』だね」とのつぶやきが残されていた。1人のビルオーナーによる小さな一歩は、今やまちぐるみの取り組みに発展し、魚町3丁目再興の機運を盛り立てつつある。火災被害にくじけることなく、周囲とともに再興を果たすことを願ってやまない。

(了)
【田口 芳州】

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