<旬の地元食材でおいしい料理>
食堂車(ダイニングカー)でのディナーは、寝台列車の華だ。
「こういう高級な旅行に来られるお客さまはいい料理に慣れてらっしゃいますので、九州の地元のおいしい食材を使ったおいしい料理をいかに出していくか、大変苦労しました」。古宮洋二・クルーズトレイン本部長はそう語る。
「料理をどういうものにしようか、最後の詰めに入っている段階だ」というが、JR九州に食堂車が復活するまでには、クリアすべき大きなハードルがあった。それは、「160メートル・7両編成(機関車を除く)」という制約である。
「さあ、この7両をどのように分けようか」と、レイアウトの検討に入ったが、食堂車を入れようとすると大変なことがわかった。「オリエントを見ますと、食堂車だけで4両あって、その横に厨房車が2両あります。バックスペースがものすごく必要なのです。いかにして料理を提供するか検討しましたが、ついには列車内で調理して料理をお出しするのは、いったん断念したんです」「勉強すればするほど難しいことがわかりました」と、古宮本部長は振り返る。
「ななつ星」の7両編成で、食堂車2両と厨房のバックスペース1両を使うと、居住空間が少なくなる。バックヤードの厨房スペースに2両丸々使えるオリエント急行とはわけが違った。
そこで、ケータリングのようなかたちで料理を運ぶ方法や、停車駅のレストランか旅館で食事を提供する方法など、いろいろ考えてみた。
<「やっぱりやろう」「これならできる」>
しかし、食堂車は、交通手段のスピード化という時代の流れで失われたものを取り戻す贅沢な空間と時間だ。外してしまったら、クライマックスのない芝居のようなものになってしまう。
結論を出したのは、唐池恒二社長だった。「やっぱり列車のなかでつくった料理を食べれるようにしよう」。
実現までの検討作業は連日続いた。調理スペースだけでなく、食器を洗う機械も置かなければならない。食器を入れるスペース、ワインセラーも必要だ。専門家にいろいろ聞いて、「最新の機械を入れるなど工夫すればできる」「それならば、やろう」となったのは、昨年9月のことだ。
ななつ星は、ラウンジカーとダイニングカーの2両を工夫して使うことで、客室のスペースを確保している。「2両の2カ所を厨房として使って、定員30名全員の料理を調理し、テーブルも入れ替えなしで定員30名全員が座れるように考えました」。
夕食だけは、メイン料理の調理に時間とスペースが必要なため――たとえば、30人分のお肉を同時に焼くのは無理なため――スタートを30分ずらすことで、30人全員に対応できるようにすることも検討している。
<厨房スペース確保への秘策>
古宮本部長は、デザイナーの水戸岡鋭治氏を含む、スタッフとの議論を昨日のことのように思い出す。
「厨房スペースの置き方については、実際に料理をする方の意見を聞きながら進めました。これでは狭いとか調理ができないとか意見が出され、実際に使う側と、デザイナーと、つくる側と三者をうまく調整するのに1番苦労しましたね。一緒に全員集まって、図面を広げて、『ここはもうちょっと広く』とか...。実は私も意見を言って、もともとの案からゴロッと変えさせたんですけど」。
食堂車は、水戸岡鋭治氏のこだわりでもあった。水戸岡氏がデザインした787系「つばめ」は、食堂車を断念せざるを得ず、ビュッフェにとどまった。1992年、食堂車が滅びゆくなか登場した787系「つばめ」は、卵形のカーブの天井と桜の一枚板のカウンターのあるビュッフェ車両を目玉にして、鮮烈にデビュー。博多-西鹿児島間を約4時間で結び、多くの乗客を魅了したが、その「つばめ」のビュッフェも九州新幹線の一部開業とともに姿を消し、すでに約10年が経つ。
「鉄道の時代」を復活させてきたJR九州の意地が、ななつ星の食堂車に凝縮されている。
ななつ星の3泊4日コースでは、初日に、ゆふいんを散策した後、列車内で特別メニューが待っている。九州の四季折々の旬の食材が初日の夜を飾る。車窓を流れゆく夜の景色を眺めながら、同乗者との会話も弾むだろう。
▼関連リンク
・JR九州クルーズトレイン「ななつ星in九州」ホームページ
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