<経営会議(14)>
大沢監査役は、
「自分が聞いていないというのはそういうことではなく、皆さん方が取締役会で、頭取の言動などに大きな問題がある、また経営に支障をきたすような大きな問題であるという認識をしておられるのであれば、取締役会で何度も言うべきなのです。それでもなお且つ、谷野頭取の言動が改まらずに、このまま見過ごせば維新銀行の経営にも問題が出てくるといった場合に、今回のような再任を断るということであれば、それは筋が通っている。
ところが皆さん方が、今まで取締役会で具体的にそういう話をされたという記憶は私にはない。それを言っているわけです。谷野頭取の言動などにそれだけの問題があるというのであれば、言う責任があなた方にあるわけです。あなた方は株主の負託を受けて取締役になっている。基本的に銀行のために尽くすべき義務があるわけであり、そういうなかで、問題があると認識しておりながら、取締役会で一切それに触れずに、ここにきて急にそういう話が出てくるというのは極めておかしい。それは世の中一般に通用しないことです。
まず自らが今までそういう問題を認識しておりながら、取締役会で意見具申をしなかったことについてまず反省をしていただいて、『これからは頭取にもちゃんとしてもらいますよ』と叱咤激励し、再度『次のステップで頑張ろう』と言うのであればまだわかるのだけれども、そういうことをしないで、ここにきて急に、『辞めて下さい。もう歳だから辞めて下さい。若手に譲って下さい』と言うのは、極めて常識では通用しない乱暴な話です」
と、訴えるように話しかけた。
それを聞いた常務の北野は、
「大沢監査役を責めるわけではないのですが、一方でそうおっしゃるのであれば、これだけの取締役が反対の意向になったのは、営業サイドでかなりの問題が起きているからです。それらについて監査役としてそういう情報をどうして掴んでいただけなかったのか。私どもをそのように責められますが、取締役の我々から言わせれば、監査役としてもっと営業の実態を見ていただきたかったというように思います」
と、皮肉を込めた言葉を返して来た。
それを聞いた大沢は、
「あなたたちが谷野頭取を罷免しようと結束しているのは、『第五生命のアンケート調査』が影響しているのではないですか。聞くところによると谷野頭取の罷免に賛成意見を述べておられる役員の多くが、第五生命の山上外務員の保険勧誘に協力していたと記述されています。その辺はどうなのですか」
と、守旧派のアキレス腱を深く突きさす質問を投げかけた。
すると即座に専務の沢谷が、
「その調査は3月に入ってからであり、我々はそれ以前の谷野頭取の経営のやり方を問題にしているのです。その話をこの場に持ち出すのはいかがなものかと思います。今話をしているのは、監査役として、『どうして現場の意見を汲み上げきれなかったのか』を聞いているのです」
と述べ、保険の問題は谷野頭取罷免とは直接関係ないことを強調した。
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