<経営会議(15)>
谷野は、大沢監査役が話した『第五生命のアンケート調査』を今この場で議論することによってお互いが先鋭化し、対立がいよいよ激化し収拾がつかなくなることを恐れ、この問題には触れず何とか自分の再任を認めさす方向に持っていこうと考えた。
そのため谷野は、
「先程の件について監査部担当の役員として申し上げますと、月1回監査部長、私と監査役を含めて臨店結果を聞く。そして監査役も臨店しております。その時の報告も聞いております。そしてその時はただ事務検査の結果だけではなく、いろいろな経営のあり方についての支店長の考え、それから私も支店長面接を本店で行なう時も、トップに対して何か要望はないかというのも聞いております。私が聞いた場合には遠慮してなかなか言いません。しかし監査部長、あるいは監査役が臨店した結果については、今言ったようにただ単なる事務の仕振りではなく、営業の実態、経営に対する要望、何か大きな問題はないか、特に経営の独断専行があるかどうか、その辺についても聞いております。しかし今まで一度もそういうことで私は報告を受けてはおりません」
と述べ、保険の関係についてはその後一切触れなかった。
谷野の意図を察知した大沢は、
「今の北野常務の話ですが、監査役と言うのは何から何まで全部調べることはできないのです。だって2人だから。そこで、『監査役さん、あなたたちは責任を果たしていないではないですか』と、取締役会で言うべきなのです。そういうことを言われたら当然に監査役は調べるわけです。そしてそれが問題であれば、代表取締役に改善をして貰うように言わなければいけない。しかし監査役は万能ではないのですから何が何でも全部は無理です。従って、傘下の支店を管轄する取締役さんも支店長の意見を汲み上げることが求められます。取締役会でそういう話しがどんどん出れば、それによって当然監査役は動きます」
と述べ、その後『第五生命のアンケート調査』についての話を持ち出すことはしなかった。
大沢の発言を援護するように木下取締役は、
「小林取締役と私と梅原取締役3人は頭取の近くにいるわけです。我々が一番叱られています。私は営業店から見る目は反対しません。それは私にはわからないから。本部から見て、あれだけ改革をし、あれだけ前向きに進んで難関を突破できたのは、やはり現頭取の力だと思います。人間は仙人ではないから確かに短所もある。悪いところばかりに目を向けてものを言われること自体がおかしい。私はそう思います。やはりトータルでどうなのかということを見るべきではないですか。本部の者としての意見です」
と述べた。
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