春爛漫、東京でも桜の季節を迎えている。街を歩けば、そこかしこに桜色の霞が掛かっているかのように見える。見事だ。日本の原風景は水田だと言われるが、桜並木も負けてはいない。
今は、魂を桜に委ねたいと願う人も増えているらしく、桜の木の下に埋葬する「桜葬」なるものが静かに広がっているという。
「桜の木の下には屍体が埋まっている!」と書いたのは、大正~昭和初期の作家、梶井基次郎だ。短編小説「櫻の樹の下には」の書き出しとして有名なこの一文は、ある古典に触発されて生まれたといわれている。平安時代末期から鎌倉時代初期に生きた、武士であり、僧侶であり、歌人であった西行の歌だ。
願わくは花の下にて春死なん そのきさらぎの望月の頃(西行)
当時の花は桜を意味する。
桜の下で永久の眠りにつきたいという願望は、古典のなかに息づいていたのだ。
梶井基次郎より少し後の作家、坂口安吾は、「桜の森の満開の下」という小説を書いた。こちらは戦後の東京が原風景となっている。東京大空襲の死者を上野の山で焼いたとき、桜が満開であったことが心に焼きついて離れなかったようだ。
桜と死は分かち難く、脈々と日本人の心に受け継がれ、「桜葬」という新しい葬送のあり方として甦った。
アベノミクスは、「財政出動」「金融緩和」「成長戦略」という「3本の矢」で経済力を強化させることに懸命だ。経済成長の先には、新しい産業の創出が期待されている。
「桜葬」は、日本人の心が生んだ新しい産業だ。アベノミクスはどんな産業を生むのだろうか。
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