防衛省は3月12日、海上自衛隊のP3C哨戒機の後継機となるP1の開発が完了したことを発表した。以下、安保・防衛問題の専門紙である朝雲新聞(3月21日付)の記事をもとに紹介する。
<哨戒機と輸送機を同時開発>
P1は純国産の固定翼哨戒機(PX)として、2001(平成13)年から開発が進められてきた。同じく航空自衛隊も、C1輸送機の後継機(CX)の必要性に迫られていたため、「PX・CX2機種」の同時開発となった。
洋上を低空で飛ぶ「哨戒機」と、大型貨物や人員を積み高空を飛行する「輸送機」という、形態も任務もまったく異なる2機種を同時に開発したことは、日本の航空機産業の技術力を世界にアピールする大型プロジェクトとなった。
設計には1,800人の技術者が参加し、2機種を同時にデザインした結果、両機は尾翼、主翼の一部、コックピット、搭載機器などが共有化された「兄弟機」となった。これにより総開発費約3,500億円のうち、約250億円程度のコスト削減につながった。
<国内企業2,000社の技術の結晶>
今回のプロジェクトの主契約企業は、川崎重工業が選ばれたが、他に三菱重工業、富士重工業、日本飛行機が機体製造を担当した。エンジンはIHI、レーダーは東芝、音響処理装置は日本電気、管制装置は神鋼電機、自己防御装置は三菱電機が担当するなど、P1は国内企業2,000社の技術の結晶と言える。これまで約30年間にわたって運用されてきた米国製プロペラ機P3Cと比較して、P1は以下の点で大きな技術の進化がある。
(1) ジェトエンジン4発のP1は、速力、上昇能力ともに1.3倍に能力が向上し、短時間で目的地に到着できるようになった。
(2) 現場到着後は、気象に影響されない高空に滞空し、エンジンも2発止めて省エネモードに移行し、高性能の対水上監視レーダーにより、長時間の海洋監視活動が可能となった。
(3) 搭載電子機器の電磁干渉を防ぐため、光ファイバーによる「フライ・バイ・ライト操縦システム」を世界に先駆けて導入した。
(4) 潜水艦を捜索・追尾・攻撃する対潜戦では、上空から複数のソノブイを海面に投下し、敵艦の位置局限を実施するが、P1では音響システムなどに人工知能によるアシスト機能を装備しているので、若い対潜員もベテラン隊員並みの高度な対潜任務を行なえるようになった。
<海自は70機を調達する計画>
今後、海上自衛隊はP1を70機程度導入するとしている。P1の配備は、厚木基地(神奈川県)から開始され、八戸(青森県)、鹿屋(鹿児島県)、那覇基地(沖縄県)もP3CからP1に順次代替していく予定だ。
P1はネットワーク化された海自の戦闘指揮システムの中核を担い、日本周辺海域の監視活動をするほか、遭難船舶の捜索など災害や事故にも対処する。有事には対艦ミサイル、魚雷、対潜爆弾などを装備し、攻撃の任務にも就くことになる。まさに純国産固定翼哨戒機P1への期待は大きい。
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<プロフィール>
濱口 和久 (はまぐち かずひさ)
昭和43年熊本県菊池市生まれ。防衛大学校材料物性工学科卒業。陸上自衛隊、舛添政治経済研究所、民主党本部幹事長室副部長、栃木市首席政策監などを経て、テイケイ株式会社常務取締役、国際地政学研究所研究員、日本政策研究センター研究員、日本文化チャンネル桜「防人の道 今日の自衛隊」キャスター、拓殖大学客員教授を務める。平成16年3月に竹島に本籍を移す。今年3月31日付でテイケイ株式会社を退職し、日本防災士機構認証研修機関の株式会社防災士研修センター常務取締役に就任した。『思城居(おもしろい)』(東京コラボ)、『祖国を誇りに思う心』(ハーベスト出版)などの著書のほかに、安全保障、領土・領海問題、日本の城郭についての論文多数。5月31日に新刊「だれが日本の領土を守るのか?」(たちばな出版、現在第4版)が発売された。 公式HPはコチラ。
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