<椅子、ベッド...居住性高める工夫>
昨年4月、古宮洋二・クルーズトレイン本部長はスペインにいた。スペインの北海岸を走る同じような列車があるというので、勉強に行ったのだ。
そこで、日本人の団体旅行客に出会い、話を聞いた。その人たちは、「私たちは昼間どこにいればいいの?」と言った。実は、その列車は部屋がとても狭かったのだ。
「ベッドと、シャワー・トイレブースだけで、椅子がないんです。『ベッドの上にいればいいの?』ということでした。そこで、客室には、昼間座れるスペースをつくらないといけないと考えました。常設の椅子は1つですが、ベッドを折りたためば椅子になるようにしています。昼間は2人が椅子に座って過ごすことができます」。
ななつ星のベッドの向きは、進行方向(線路方向)だ。昔のブルトレは、枕木方向だった。これも、どちらを選ぶか悩みに悩んだ点だ。「ブルトレに乗っていてベッドの向きが枕木方向だと、運転の操作によって、寝ていると体が動くんですね、列車が止まるとガタンとなったりですね。スペースの面でも、線路方向の方が落ち着きがあった」と、古宮氏は語る。
日本の在来線の車両は横幅約3メートル。壁があるので、2メートル80センチ程度のなかで、通路をとったうえで、いかに部屋の居住性を高めるか、レイアウトの苦労は尽きない。
「自慢になるかわかりませんが、JR九州の観光列車は、図面のときより、実際にモノができたときのほうがよくなっています。製造中の現地での変更点もありますので、現物としてできるものは、完成イメージ図よりもっとよくなると確信しています。現物を楽しみにしていただきたい」と、自信をのぞかせた。
<オリエント急行――ホテル泊する別の目的>
なにかと比較対象になるオリエント急行を見てみよう。
現在は主にロンドン-ヴェネチアの定期運行で知られているが、往年のパリ-イスタンブール区間のルートは、年に1度特別運行されていて、5泊6日かけて旅行する。定期列車として運行されていた1880年代、パリからイスタンブールまで81時間で行けたので、今でもホテル宿泊を入れなければ、ななつ星とほぼ同じ3泊4日で目的地に到着することは可能だ。
それなのに、オリエントがあえて車中泊とホテル泊を交互に入れた旅程になっているのは、途中下車駅地での観光を楽しむためなのはもちろんのことだが、実は、もう1つ重要な目的がある。
豪華列車の代名詞となった往時と変わらないベルエポックな車両の、たった1つの難点といえば、シャワーの設備がないことだ。1930年代の旅なら上流階級でも当然だったが、現代では、庶民でさえ寝台列車にシャワーは必須だ。女子旅で人気が出ているサンライズ瀬戸・出雲でも、共用だが、シャワーが備えられている。
<水を補給は鹿児島車両基地で>
ななつ星には、全室シャワー・トイレ・空調を完備している。苦労したのは、水を積むスペースの確保だった。排水を線路に捨てるわけにはいかないので、当然、排水を貯めるタンクも積む。1,000リットルの水を積むと、1,000リットルの排水用のタンクスペースが必要ということだ。これは、床下のスペースをものすごく使う。
「実は、シャワーでお客さまがどれくらいの水の量を使うのか、メーカーさんに行って、1分間に何リットル使うか調べた」(古宮氏)というほど、厳密に調整してスペースを確保している。
シャワーの水は、定員30人全員が想定通り使って、3泊4日もつのだろうか。内緒の話を古宮氏が教えてくれた。「いえ、もちません。2泊目の夜、お客さまが旅館に泊まられているときに、鹿児島の車両基地に入れて、水を補給して、機関車にも燃料油を入れます」。
▼関連リンク
・JR九州クルーズトレイン「ななつ星in九州」ホームページ
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