<経営会議(16)>
今までほとんど話さなかった常務の川中が、
「トータルで見たから我々の提案になったわけです。たとえば業績がどうこうと今言われたようなことが、谷野頭取でなかったらできなかったということはあり得ないと思います。ただこれだけ営業店の人間が、こういう形で今のような提案をしているということ自体問題があります。トップとしての資質に対する異議ありと言う問題を含めて、議論されるべきと思います。私は個人的にはそういうことで谷野頭取では今から新しい計画でやっていく上での求心力等は、これだけ営業店の人が言っているのに、このまま続けてもこの先何が出来るかという感じになっております」と発言した。
大沢監査役は、
「トップの資質と言うのは、経営手腕とかいうことではないですか。今あなたが言われたのはトップの個性ではないのですか」
と訊いた。
すると川中は、
「個性も当然その中に含まれると私は思います」
と答えると、大沢は、
「そういうことであれば、谷野頭取の経営手腕、あるいはこれまでの実績、これはこういうことでありますと。一方で谷野頭取の個性としてこういうマイナス面もあります。そのマイナス面もかなり具体的にあげて、その両方を評価して、バランスを取ったらやはり個性のマイナス面の方が大きくて、このままで行けば経営にも支障を来たして業績も悪化するという恐れもあるので、だから再任はしたくないのだ、認めたくないのだというふうに、現頭取の経営手腕、実績など、それらをきちんと分析して、そして企業として実際に谷野頭取がトップで経営を続けるということがどれだけのプラスなのか、どれだけのマイナスなのかということぐらいはっきりさせなければ、少なくともトップを実質解任するという軽はずみな行動を取るべきではない。その点を具体的にもう少しはっきりしないといけないということです。極めて皆さんのおっしゃることは抽象的です。
経営者というのは、要するに1番は業績を上げることが大切です。株主は業績をあげて、株価を上げて、配当を増やしてくれるトップが1番良いのです。基本はそれです。業績が上がらないからということであれば、それは大きな問題があるでしょうけれども。今業績が上がって問題がないと思われるのに若返りを理由に退任を求める。しかも今回栗野会長はご病気のために退かれるのに、1期2年で谷野頭取も辞めるということは通用しないし、こんなことをすればいくら隠しても本当のことが漏れます」
と、谷野の解任がいかに間違っているかを切々と訴えた。
この時点で出席した取締役11人のうち10人が発言し旗色を鮮明にしたが、守旧派の重鎮である代表取締役会長の栗野と、オブザーバーとして出席している谷本相談役の2人は、黙って双方が展開する議論を聞いていた。
※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。
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