中国の大気汚染が発生源となっている微小粒子状物質PM2.5。知見不足の中、九州北部など影響の強い地域の自治体は、健康被害への対応について市民、民間、専門家などと細かくコミュニケーションを取り、意志疎通を図っていく必要がある。
さらには、今後、中国発の大気汚染は、日中を含めた東アジア全体の解決すべき課題となる。公害を克服した経験を持つ日本の環境技術の果たす役割は大きい。中国発生の越境汚染は迷惑だが、悪化する日中関係の改善、東アジアの主要国として、日本は戦略的にリーダーシップを取っていけるか。
<国内のPM2.5濃度に変化はない>
粒子が細かく、吸引すると肺の奥まで入りやすいことから、呼吸器系への影響が懸念されているPM2.5。今年に入ってその名を頻繁に耳にするようになった。
5日に熊本県で、環境省が示した基準値を超え、外出自粛の注意喚起が出た。黄砂、花粉に加え、PM2.5のトリプルパンチを予防するため、この春先にはマスクをする人が、街中でも多く見られるようになった。
中国の北京、上海などの都市がスモッグに包まれる様子が、一部メディアでセンセーショナルに伝えられ、日本でもその影響を心配する人が増えたが、環境省のデータによると、ここ数年を比較しても、国内のPM2.5濃度は変わっていない。環境省の水・大気環境局の担当者は「観測データによると、年平均値でPM2.5の濃度は増えてはおらず、減っているか、もしくは横ばいです。北京の大気汚染の状況が悪化しているので心配する人は増えましたが、国内の大気環境は、急に変わっているわけではありません。今まで通りでいい」と語る。
兵庫県尼崎の国設測定所のデータで比較してみると、07年4月の平均値が24.8、最大値が93。10年の4月の平均値が23.2、最大値が62で、今年3月下旬のある一日の平均値が20程度、最大52程度で推移している(単位は1立方メートル当たりのマイクログラム)。
<なぜ今年に入って?>
環境省の出したPM2.5を含む大気汚染の状況データによると、昨年度のPM2.5の濃度と今年度の濃度はほぼ同等。環境省の大気環境局の担当者は、「高い値ではありますが、昨年と変わっていません。専門会合を開いて、健康への知見を積むように努めていますが、数値からは言えば、昨年、何もなかったのであれば何もない」と、『今までどおりでいい』ということを強調した。
発生源の一つに、中国の大気汚染があることは間違いないが、国内の工場、排気ガスなどからも発生しており、国内におけるPM2.5の濃度にはここ数年変化がない。なぜ、国内のPM2.5の濃度に変化はないのに、今年から突然、騒がれ始めたのか。背景には、北京市によるPM2.5の観測データが、急激に悪化したことがある。
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