地元の菓子製造・販売大手「さかえ屋」(福岡県飯塚市、森山敏弘代表)は、3月15日、(株)ドーガン・インベストメンツ(福岡市、森大介代表)の100%子会社である(株)エス・ケー・イーから自社の全株式を譲り受け、同時に当該株式を全て消却していたことが判明した。事業再生ADRを利用した同社の再建計画では、自社株消却に基づきドーガン・インベストメンツと(株)トモス(福岡県嘉麻市、福澤雅道代表)に対して第3者割当増資を行い、同時に各金融機関から総額25億円の債権放棄を受ける行程とされる。そのため、この度の自社株消却によって、再生手続きはほぼ終了したことになる。
当該事実は、中野モモヨ氏から3月6日に出された株式仮処分命令申立に対する(株)エス・ケー・イーからの回答によって明らかになったもの。中野モモヨ氏は、中野利美氏の母で、さかえ屋の創業者・中野辰弥氏の妻。自身は「私の人生そのもの」であるさかえ屋の株式を譲渡した覚えはなく、現に株式を保有する(株)エス・ケー・イーは株式を勝手に処分しないように、と申し立てていた。当該申立に対して(株)エス・ケー・イー側は、保有株式を3月15日付でさかえ屋に譲渡し、同日、さかえ屋が全株の消却を行ったため、既に株式を保有していない、などとする回答を3月22日付で寄せている。
一連の経過をみると、さかえ屋の再生手続きは着実に進み、既に最終段階を迎えているものと考えられる。
但し、問題がないわけではない。さかえ屋の再生手続きは、メインバンクである西日本シティ銀行、スポンサーであるドーガン・インベストメンツおよびトモスが核となり、各金融機関からの25億円に及ぶ債権放棄と、スポンサーである2社に対する第3者割当増資を骨子としている。債権放棄の前提条件として掲げられたのは以下の4項目(1月25日付、西日本シティ銀行による報告書に基づく)。
1.さかえ屋による関連会社3社の吸収合併
2.その他関連会社6社の清算と、さかえ屋による重畳的債務引受
3.トモス、ドーガンによる3億円の金融支援(第3者割当増資)の実施
4.旧経営陣における保証債務の履行を含む経営責任の実現
また、3の第3者割当増資は、さかえ屋による全株式の消却を前提(3-A)としている。
しかし、中野モモヨ氏の主張が通れば、それは株式譲渡の錯誤「無効」(民法95条)を意味し、前提条件3および3-Aが根本から崩れる可能性がある。また、前提条件4につき、元社長・中野利美氏に対する第三者破産の決定が福岡地裁飯塚支部から下りているものの、同氏は現在抗告中。破産によって経営責任を取らせる術は確定しておらず、前提条件4も満たされたとは言い難い。このような不安定な状況の下で、最終段階である株式消却に踏み切った判断に驚かされとともに、各金融機関が状況を知った上で債権放棄に応じるのかにも疑問が残る。
中野一族の株式譲渡に関する説明と譲渡契約は、西日本シティ銀行の担当者と株主各人との間でなされたが、中野モモコ氏の場合だけ、さかえ屋の従業員を通じて行われたことが分かっている。これだけの重要事項に重大な不安定要素を紛れ込ませること自体、脇が甘いとと言わざるを得ない。また、仮処分申立(3月6日)から回答(3月22日)までの僅かな期間に株式譲渡と消却を実施(3月15日)した点について、エス・ケー・イーは、当初の予定通りであることを強調するが、疑念を持たれてもおかしくはあるまい。
従来から報じてきたように、今回の再生過程には至る所に杜撰さが見られ、青写真を描いた者のスキルに疑問符が付けられている。今後も新生さかえ屋の動向が注目される。
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