新たなコンサルタントの下で再建を進めた樹啓会の業績は徐々に好転した。09年8月期決算で医業収益(売上高)5億465万円、医業利益906万円、10年8月期では医業収益5億8,781万円、営業損失92万円、11年8月期では医業収益5億6,041万円、医業利益1,342万円と、医療業務に関する収支は黒字か僅少な赤字に留まっており、支払金の減額や返済期間延長、経費削減策が奏功した格好だ。積極的な広告宣伝のため広告費は増大したが、それ以上に収入が増えたことで本業の収益が改善した。ただし、リストラに伴う固定資産除却損・売却損などの特別損失が生じることで、バランスシート上は大幅な債務超過の状況が続いていた。
こうした状況下で、大きな痛手となったのが元理事からの訴訟である。元理事から過去の多額の貸付金を巡る差押え手続きを受け(矢野理事長は実態のない貸付けと主張)、その対策費として弁護士費用など資金負担を強いられることになった。リース会社と支払いについて和解していたにもかかわらず、さらに返済条件変更を申し入れざるを得なくなるなど資金繰りは不安定な状態に陥り、同時に矢野理事長の精神面も不安定になっていったようだ。
患者の前で歯科衛生士を怒鳴り散らすなど、もともと情緒不安定な面があったと聞かれる矢野理事長だが、2012年に入り不安定さは増していったという。樹啓会の関係者からは「手の震えがひどくて危険」「物忘れがひどくて普通の診療の流れも忘れ、器具の使い方も忘れていた」など驚くような証言も出ている。オペ中に器具の使い方がわからず、患者の頭の上で「これ、どうすると?」と歯科衛生士に聞き、不安になった患者が途中でキャンセルしたこともあったという。こうした現場の実態を知ったコンサルタントは、12年4月に契約を解除し離れていった。
年間で1,600本近いインプラントを手掛けた実績を持つという矢野理事長だが、医療行為に専念するあまり、経営に関してはいつも人任せの状態だった。経営実態を全く把握しておらず、常に誰かに頼りながら経営を続けてきた。それが、さまざまなトラブルを引き起こした原因でもある。12年5月以降は混乱に拍車がかかり、ついには患者を巻き込んだ騒動へと発展していった。
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