<経営会議(20)>
小林取締役は、
「こういう形で仮に解任となった場合に、金融庁をはじめとする監督官庁は、維新銀行のガバナンスのあり方について非常に関心を持つと思われます。いずれ来た時には議事録も読むでしょう。こういう形になった時に、当局は『やっぱり維新銀行はそうなのか、だからいろいろな不祥事も起きたのか』という、非常に誤った捉え方をされる可能性があります。
それから今問題となっている情報漏洩についても、恐らく24条で追及してくるでしょう。その後にはまた業務改善命令ということも出てくるでしょう。そして仮にもう1件でも不祥事が発生しまた業務改善命令ということになると、その時にはトップの挿し替えということになるでしょう。そういうような状況を作っていくことは最も拙いことだと思います。
それからもう一つ。営業店の役員さんの一致した意見ということでありましたが、そうであれば、やはり木下取締役が言われましたように、本部の役員である私共にも責任が当然あるのでしょうから、それについては逆に言えば、今ご提案された方々が本部にお帰りになって、自分たちがやっていなかった営業店とのコンセンサスを取って、新3カ年計画を進めていけば良いことであり、本当に今ここで谷野頭取に辞めていただくことが維新銀行にとって良いのか、私は疑問に思います。ですから今ご提案なされた方は、本部に今回お帰りになってやれば良い事ではないかと思います」
と、切々と訴えるように話しかけた。
大沢監査役も、
「今一番大事なことは、維新銀行の業績を上げていくということですから、皆さんも維新銀行を良くするための責任があるわけです。皆さんが本当に維新銀行のためにという考え方で、いろいろなことをおっしゃっています。いろいろなことを考えてとことん議論すれば良いのです。そうすれば完全に一致はしないかもしれないが、話し合いのなかで物事は進んでいくはずなのです。
ところが先ほどから聞いていますと、皆さんが谷野頭取の再任を拒否する理由というのは、はじめから銀行のためということから基本的にずれているという気がします。
何故かと言えば、問題点について意見をして、頭取を含めて改善をしていこうという気持ちがあまり感じられない。頭取も先ほど言われたが、『先に結論ありき』という感じが非常に強い。今も小林取締役が言いましたように、営業店と本部の意思疎通が足らないという大きな問題があるのであれば、人の入れ替えも良いでしょうし、もう少し本部との話し合いを強化していけば良いわけです」
と述べると、専務の沢谷は、
「営業店を預かる我々は、監督者である谷野頭取の采配に、何度も警告のサインを送りましたが気付いてもらえなかった。それで今回止むにやまれず退任していただき、新しい頭取のもとで団結していこうと決めたのです」
と述べ、大沢の説得に真っ向から反対する姿勢を示した。
※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。
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