<外か内か>
以上がキプロス銀行救済劇の概要だが、ここで言わなければならないのは、2009年にユーロ危機が始まって、すでに4年が経過しようとしているが、南欧を支援する側の北欧州の諸国の間で、「支援疲れ」や「支援に対する嫌悪感」が露骨に出てきているということで、それがIMFや欧州連合やECBの「トロイカ」で議論されている、今後の「金融危機に陥った銀行の解散措置」を巡る議論にも影響が及んでいるということである。ここでキーワードになるのが、bail-in(ベイル・イン)という用語である。
bail-inと対になるのがbail-out(ベイル・アウト)である。欧米の新聞ではリーマン・ショック以来、この「ベイル・アウト」という言葉が連日見出しに踊った。bailとは「保釈金」のことである。犯罪者が捕まって身動きが取れなくなった時に、司法当局に収めるのが保釈金である。bail-outというのは、外部(out)から保釈金を出してもらうという意味である。すると、ベイル・インとは、自分で保釈金を捻出するという意味になる。外から出すか、中から出すか(in)という違いだ。
これを債務危機や銀行危機の議論にはてはめると、ベイル・アウトは銀行の外から救済資金がやってくるということを意味し、ベイル・インとは銀行のステイクホルダーが救済資金を自分で捻出しなさい、ということになる。今回のキプロスの例や、去年の民間投資家に対する、ギリシャ国債の額面カットという措置は、まさにこの「ベイル・イン」の実践であった。
もともと、ユーロ圏救済ではアイルランドやスペインの例で見られたように、救済資金に使われたのは、原資がユーロ圏の国民の税金(tax payers' money)であった。しかし、すでに少し述べたように、去年のギリシャ債務危機処理や、今回のキプロスでは、銀行のステイクホルダー(株主、債券保有者、預金者)が処理コストを負担させられることになった。このベイル・アウトからベイル・インの流れを確立させるべきだということは、すでに「トロイカ」の間で議論されており、2018年をめどに義務化されるという見込みである。
一方で、ユーロ参加国が財政危機に陥った場合に金融支援を行なうための恒久的な制度として、ESM(欧州安定メカニズム)というものがある。これは、2013年6月までの時限措置として設けられたEFSF(欧州金融安定ファシリティー)を引き継ぐものであるが、この支援については軽々に行なうべきではないとするのがドイツの立場だ。ドイツ国内法ではESM活用は、ユーロ圏の銀行の経営監視を域内で一元化するなどを規定する「銀行同盟」(バンキング・ユニオン)の成立が前提条件になっていることも、南欧救済に勢いがないことの背景にある。ましてや、ロシアマネーのマネーロンダリングに利用されている疑いもある、小国キプロスの銀行危機には国民感情的にも使えない。
なお、ESMの融資枠は5,000億ユーロであり、キプロスの救済をベイル・アウトで行なった場合、必要なのは最大でも180億ユーロであったから十分に対応できる額だった。キプロス救済はギリシャ債務危機救済に比べれば桁違いに少ない額である。にも関わらず、キプロス救済は、ベイル・アウトだけではなく、ベイル・インの併用になったのは、まさしくダイセルブルーム議長が発言するように、今後のユーロ圏の銀行の問題解決(レゾリューション)に関係しているからでもある。
<プロフィール>
中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。
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