東日本大震災を要因とする福島原発事故などにより、改めて見直されるようになった環境問題。太陽光発電などをはじめとする再生可能エネルギーへの関心が強くなるなかで、人々の生活から必ず出るゴミ(廃棄物)の処理・リサイクル分野にも、改めて注目が集まっている。廃棄物の最終処分、循環資源化などを専門に研究する九州大学大学院工学研究院教授である島岡隆行氏に、これまでの取り組みや今後の廃棄物リサイクルの展望について話を聞いた。
<拡大する循環資源の活用>
――現在、取り組まれている主な研究内容はどのようなものでしょうか。
島岡 先ほど話したように、現在の日本では多くの廃棄物が焼却処理されます。ただ、焼却後には焼却温度に耐え得る重金属が焼却灰に残るかたちとなり、その濃度は焼却前と比べて遥かに高くなります。重金属などの有害物質が濃縮された焼却灰が、埋立てられ年月が経つにつれて、どのような挙動をしていくのか。そこが柱となる研究対象です。酸性雨によって、灰から有害物質が流れ出さないのか、長期間におよぶ埋立てにより化学的な変化を起こすのか。実用可能な研究とするため、実際に焼却炉から出る焼却灰を利用して研究を行なっています。
――焼却した際に必ず残ってしまう灰の処理方法には、埋立て以外ないのでしょうか。
島岡 代表的なものに、セメント原料としての利用があります。欧米においては、家庭から出る廃棄物を適切に焼却処理することで、焼却灰の多くを土木資材として有効利用しています。
日本における焼却灰の有効利用が進まないのは、公害病など過去の有害物質による被害の影響から、世間の目線が厳しいからでしょう。研究によって、適正に有効利用した物は20年、30年といった長期間にわたり安全であるということを改めて証明できれば、循環資源の利用促進、さらには循環型社会実現の近道になるのではないかと考えています。
まずは、公共事業などで試験的に利用しながら、廃棄物のリサイクルについて、どのような利用方法が良いのか、見極めていく必要があるでしょう。
――代表的なセメント原料としての焼却灰の利用ですが、重金属などの有害物質を含むということで、製品としての問題はないのでしょうか。
島岡 有害物質がそのまま影響を与えるというより、焼却灰中に含まれる塩素イオンの除去が課題となっています。これは、生ごみに含まれる食塩やプラスチックである塩化ビニル樹脂などに由来して残留するものです。
セメントの多くは鉄筋と一緒に使用するため、含まれる塩素量が多いと錆びてしまい、コンクリート製品になりません。そのため、含まれる塩素量の基準が日本工業規格として決められています。塩素を除去するには、大量の水によって焼却灰から塩素を洗い流す方法があります。ただ、塩素のなかには不溶性の物があり、こちらは焼却灰に少量の有機物を加えることで分解、除去する方法を開発しています。
このように、焼却灰を利用したセメントづくりには、相応のコストがかかること、特殊な方法をとることが必要になってきます。そのため、リサイクルは進まないと考えがちですが、実はそうでもありません。
現在、セメントを1トンつくるのに、重量の4割以上において廃棄物を原料、または燃料として用いていると言われています。アジアをはじめとした海外製の安価なセメントが国内に入ってくるなか、廃棄物の受け入れによる利幅で、価格競争により削られた利幅を確保しています。現在では、多くのセメント工場において大量の廃棄物を受け入れる体制が確立されており、その面で言えばセメント製造業は廃棄物処理業とも言えるでしょう。
<プロフィール>
島岡 隆行(しまおか・たかゆき)
1958年、京都府生まれ。現在、九州大学大学院工学研究院教授(工学博士)、東アジア環境研究機構プロジェクト推進室室長、附属循環型社会システム工学研究センター副センター長、などを兼任。廃棄物最終処分、廃棄物の循環資源化が専門。国内外での研究活動を進めるなか、福岡地区では飯塚市産業廃棄物最終処分場に係る調査専門委員会の委員なども務めている。
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