東日本大震災を要因とする福島原発事故などにより、改めて見直されるようになった環境問題。太陽光発電などをはじめとする再生可能エネルギーへの関心が強くなるなかで、人々の生活から必ず出るゴミ(廃棄物)の処理・リサイクル分野にも、改めて注目が集まっている。廃棄物の最終処分、循環資源化などを専門に研究する九州大学大学院工学研究院教授である島岡隆行氏に、これまでの取り組みや今後の廃棄物リサイクルの展望について話を聞いた。
<高まる技術と遅れる環境整備>
――廃棄物の有効的な利用が進む欧州と比較して、日本はどうでしょうか。
島岡 一般的に、リサイクルによって生まれた製品・素材というものは、バージン材料に比べて価格的メリットがないと言われています。単純な価格と言う面では、従来から使用されているような大量生産可能な物と比べて、価格的メリットを出すことは困難でしょう。この問題を解決し、リサイクル品を使う、つまり廃棄物の循環をさせていくには、技術・経済・法制度の3つがそろっている必要があります。
そこで、日本と比べて廃棄物のリサイクル活動が進んでいるヨーロッパと比較してみたいと思います。ヨーロッパでは、天然骨材税という環境負荷税があります。これは、天然骨材などの資源を利用すると税金が発生し、リサイクル品を選ぶ方がメリットのある状態となります。つまり、リサイクル品を利用させるようなインセンティブを法整備によって働かせたのです。
リサイクルに必要な技術の向上と法整備を行なうことによって不利だった価格面の影響を抑制し、リサイクル品の利用が促進される結果につながりました。また、処分場への廃棄物受け入れについても厳しい基準を設けました。内容は、有機物量が基準値以上に多い廃棄物を処分してはならないといったものです。収集してきた廃棄物がそのまま埋立てられない、有効利用や焼却処理せざるを得ない状況に持っていくことで、全体の埋立量も減少し、焼却灰の有効利用も進みます。
対して日本は、技術、とくに「要素技術」という面では、世界においても有数の地位にいると考えていいでしょう。先ほど取り上げたヨーロッパで断念した技術を、日本が実用レベルまで持っていったという実績があります。
ただ、その高い技術力を持ってしても、その他に必要な要素が足らず、循環システムの確立には至っていません。一部には同様の税金(環境負荷税)が科せられるものの、ヨーロッパほど徹底はしておらず、また処分場の受け入れ基準に有機物量の制限を設ける自治体はわずかです。工業排水などの排水基準は細かに決められていますが、廃棄物については段ボールでも木くずでも、現状はそのまま受け入れてもらうことができ、埋立てられるのが実態なのです。個々で言えば、諸外国と比べて日本が劣っている部分は多くはありませんが、全体として見たときにシステムとしては不十分であると言っていいでしょう。
――九州における廃棄物のリサイクル事情はどうでしょうか。
島岡 福岡をはじめとして、北部九州にはセメントの製造拠点が集中しています。実際、自治体による新規の焼却炉の計画においても、焼却灰の利用方法はセメント原料がほとんどであることから、九州はリサイクルしやすい地域特性を有していると言えるでしょう。
また、廃棄物自体のリサイクルも進めていく必要は当然ありますが、廃棄物の埋立て完了後には広大な土地が生まれるわけですから、処分場跡地の利用方法もまだまだ検討の余地があると思っています。これまでは、スポーツ施設や農地といった利用がなされてきましたが、近年注目の集まっている再生可能エネルギー、たとえばメガソーラー導入の候補先としても、広大な土地は有効活用できるのではないかと考えています。
――全国各地・またここ福岡でも、地場以外で発生したゴミが持ち込まれるといった問題が発生しています。
島岡 とくに、近年においても廃棄物は全国を動いていると言っていいでしょう。愛媛県松山市や福岡で言えば飯塚市など、各地で問題が発生している不適正な処分場があります。さまざまな地域から廃棄物が集められ、そして捨てられていきます。結局は金額の問題で、高速代や人件費を払ってでも、処理費用の安い処分場へゴミを集中させた方が、利益が取れるからでしょう。
――不当な処理、ダンピングなどが行なわれ、本来であれば処理困難な価格で受注する処理業者の存在も聞きます。
島岡 業界は違いますが、建設業では物価版によって土木資材がどの量でいくらなのかといった金額の目安となる物が示されています。同様に、アメリカにおける中古車売買においても、中古車の相場価格が記載された「レッドブック(Red-Book)」が発行されており、個人売買を促進させてきました。こういった価格の基準となるものが、廃棄物業界では個別の業者ではあっても、業界全体としてしっかりしたものはありません。
基準があれば、あまりにもかけ離れた価格であればその理由を尋ねたり、どう積み上げられて提示された価格となったのかの内訳がわかるようになります。建設業でいう「低入札価格調査制度」などの制度導入も、不当行為を働く業者が増え続ければ、必要になるでしょう。
<プロフィール>
島岡 隆行(しまおか・たかゆき)
1958年、京都府生まれ。現在、九州大学大学院工学研究院教授(工学博士)、東アジア環境研究機構プロジェクト推進室室長、附属循環型社会システム工学研究センター副センター長、などを兼任。廃棄物最終処分、廃棄物の循環資源化が専門。国内外での研究活動を進めるなか、福岡地区では飯塚市産業廃棄物最終処分場に係る調査専門委員会の委員なども務めている。
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