前回の記事で取り上げた被害者(患者)の声は一部にすぎないが、「シティデンタルクリニック」の杜撰さがよくわかる。治療法や契約の仕方に関して不安を抱いていた樹啓会内部の人間の中には、問題の拡大を食い止めようとした動きもあったようだ。
「シティデンタルクリニック」の近年のビジネススキームは、大量の広告を流し、広告を見た患者からの電話をアポインターが受け付け、インプラント相談から契約に至るというものだ。ところが矢野理事長のオペ内容や契約の仕方に不安を感じたアポインターの一部が、患者に迷惑がかかると考え、受け付けをしなくなったという。また矢野理事長の代わりに、別の歯科医に週2回程度オペに入ってもらうことも検討されたが実現しなかった。
広告代理店への未払いなどから、新聞広告が出せなくなったことで樹啓会の医業収入は減少した。一方で自由診療患者が多く、そのほとんどが治療費を前払いしているため、継続治療を行う責任があった。この時点の医業収入を前提としても当面の資金繰りは可能だったことから、樹啓会は「シティデンタルクリニック」の運営を続けながら、スポンサーによる資金援助や事業承継などの再建策を模索することになった。
2012年11月下旬、治療継続中の患者に対する治療履行義務を無償ですべて引き受け、医院を継承してくれるというスポンサー候補が現れた。継続中の患者の治療が不可能になるという最悪の事態は避けられる可能性が出てきた。ただし、「シティデンタルクリニック」の営業を継承する新医院を開設するには、診療所として借りている場所もスポンサーに引き継いでもらわなければならない。12月頃から貸主(いわゆる家主)に賃借権の継承を願い出て、条件の交渉に入った。
樹啓会側の説明では、貸主は当初、「シティデンタルクリニック」の現況に理解を示し、できる限り患者の引き継ぎが可能な方向で検討すると回答していたが、12月中旬を過ぎても明確な回答が得られなかった。このため再三、条件面の具体的な提示を求めたところ、13年1月上旬になり、新たな賃借人の候補者について「資本金3,000万円以上で過去3年間赤字決算なしの法人」が条件との回答がなされたという。樹啓会に、この条件を満たすスポンサー候補を新たに探す力はなく、貸主に再考を促したが、1月17日まで回答が変わることはなかった。
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