<経営会議(23)>
大沢の質問に専務の沢谷は、
「前期の業績はV字回復に向かっていったと言いましたが、相当な締め付けのなかで営業店長は全力を上げてやりました。頭取もやられたかもしれませんが、実際に収益を上げていったのは、営業店長が死ぬ思いでやったということです。審査を含めた強力な締め付けのなかで、貸出が伸びない、できないというなかでやってきたのは事実です。
そのなかで投信の販売を主体とする役務収益の増強で収益を上げたのです。頭取が交代すれば、我々は今から具体的にはわかりませんが、維新銀行全体が盛り上がってくることは間違いないと思っています」
と、ピント外れの言葉を口にした。
それを聞いた大沢は、
「私が言うことに対する回答になっていません。私に言わせてもらえば、今までの皆さんの話を聞いて、今回の皆さんの主張はどう考えても大義がない。極めて理不尽なことと私は受け止めています。『いやそれは違う。我々の主張は間違っていない』と皆さんは言われるかもしれませんが、一般的な受け止め方からすると、あなたたちの行為は間違っています。
本当にこれが外に漏れたら一種のスキャンダルになります。そういうことが表面化して、OBも割れ、行員も割れ、マスコミのネタになって、当行の信用が失墜し、そして行員の士気が低下するなど、かなりいろいろなダメージやリスクが発生すると思われます。
そうであれば、『このようなリスクを想定しているが、こう読んでおり問題はない』と言うふうに、具体的に説明して下さいと言っているのです」
と、深刻な事態にどう対処するかを再度訊ねた。
谷野は、
「確かにマスコミに知れた場合、また先ほど吉沢常務は、『金融庁に、議事録をどうぞ見て下さい、と言えばいい』と言われましたが、議事録というのは当然株主に閲覧権がありますから、当然金融庁とか一部の人だけではなく、広く知れ渡るということはあるかもしれません。しかし、マスコミに漏れるから、あるいは議事録が見られるから、だからこの際私の実質的解任を止めようということにはならないと思います。一つの牽制球にはなりますが」
と言うと、常務の吉沢はためらいもなく、
「牽制球にもなりません。要するに谷野頭取の再任が、今日議論された理由により認められなかったと議事録に記載されるだけですから、別に誰から見られても問題はないと思います」
と、切り捨てるように言い放った。
オブザーバーの谷本相談役は、表情を変えずじっとこのやりとりを聞いていた。そして次第に谷野が追い詰められていく姿を見て、『傀儡として言うことを聞いていればこんなことにならなかったのに、思い知ったか』と、心のなかで呟いた。
※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。
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