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「安全」こそ国民が求める商品~『防災立国』三橋貴明著(潮出版社)
書評・レビュー
2013年4月10日 14:14

 「本書が日本国内に蔓延する閉塞感の主因である公共投資否定論に対する「最強の武器」」となり、「防災立国」というまことに日本に相応しい国家モデルが実現することを願い、筆者は本書を書き上げた次第である」(「はじめに」より)

book.jpg 著者は、1969年、熊本県生まれ。本書のほか多くの著書・論文を発表しており、作家・経済評論家として知られている。現在、国土強靭化担当の内閣官房参与をつとめる藤井聡京都大学大学院教授らとともに、公共事業の必要性を訴えてきた一人だ。安倍政権において進められているアベノミクスの3本の矢のひとつである財政出動(公共投資)について、その有効性を説きつつ、一部メディアの報道のあり方に疑問を呈する。

 昨年12月に中央自動車道笹子トンネルが崩落し、7名が犠牲となる大惨事となったことは記憶に新しい。実はアメリカにも同種の事例があり、今後予想される橋梁の崩落事故などへの対応が急務であることを本書は具体的データで論証している。

 インフラの老朽化は、確実に進行しており、道路や橋梁、港湾施設、公共施設の建て替え時期は近づいている。このまま放置すれば、深刻な事態が生じるだろう。

 民主党政権下での「コンクリートから人へ」というスローガンは、建設業は悪の権化のように印象付ける効果をもたらした。建設業界の反発は大きかった。現政権が災害に強い国づくりを目指すことを掲げているが、一部の大手メディアの論調は従来と変わらず、公共事業は無駄遣いというスタンスに立つところがほとんどである。著者はそのような論調こそ、事実を歪めて報じているのだという。

 注目したいのは、現在、わが国に蔓延する公共投資否定論の根底には、国家を否定する考え方があるとした上で、「談合は果たして絶対的に悪なのか」と問題提起していることにある。指名競争入札制度は、受注した企業に品質を高めるインセンティブが発生し、手抜き工事を行なった場合、次の指名競争入札からは排除される。指名競争入札の枠から外れると仕事が得られなくなり、倒産の可能性が高まる。そのため建設業者は技術に磨きをかけ、人材を育て、ノウハウを蓄積してきた。それによって日本のインフラは世界のなかでもきわめて高い水準に到達した。

 筆者は、指名競争入札や随意契約から、一般競争入札が導入された背景には、1989年の日米構造協議でアメリカから公共事業の対外開放を要求されたことにあるという。それ以降、日本の建設業者数は減少の一途を辿ってきた。業者数の変動には、様々な要因があるが、「一般競争入札の増加で、業者が公共事業を受注できなくなった」ことと米国による対日要求との関係について考えてみる余地があるのではないか。

 社会資本整備の一環として打ち出された自民党の「国土強靭化」と公明党の「防災・減災ニューディール」が掲げる方向性は、基本的に同じベクトルを向いている。国土強靭化政策は、土建業を潤わせるだけでしかないという声も聞かれるが、建設業が地域経済を支え、防災機能を維持していく役割があることは間違いない。

 このまま建設業で働く人が減少し、技術の伝承が途絶えてしまえば「自然災害に自国の企業では対応できない国家に落ちぶれてしまう」ことになりかねない。

 「安全こそが現在の日本国民が最も求めている「商品」」で、それを支えるのが建設業だという筆者の指摘は全く同感だ。建設業界で働く方々はもちろん、アベノミクスの動向に関心を持つ方々に同書を読まれることをお勧めしたい。

【近藤 将勝】


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