9日、北九州市八幡東区東田の北九州市環境ミュージアム横にあるエコハウスで、自動車が生み出す電力を家庭に使う実証実験が開始された。電力と二酸化炭素、生活の新たな可能性を見出すべく実証実験が繰り返されている北九州スマートシティ創造事業の一環だ。これは燃料電池車(FCV)で生み出された電力を家庭で使用し、万が一の際の電源として、または補助・主力電源として活用できるか否かを調べるもの。自動車の水素タンクを満タンにすれば一般家庭6日分の電力が生み出せるという。FCVはホンダのものが使われる。
掲載写真撮影時は、まだ、この自動車が設置されたばかりで、コンピュータを用いた微調整が繰り返されていた。燃料電池自体は非常にコンパクトで、トランクの一部を占めるだけであった。動いている間、ブゥーンという低い音がするくらいで、内燃機関のような耐えられないほどの騒音は発生していなかった。
同実験は、電気をためるためのメディアとしての自動車の可能性を探っているわけではない。電気をつくる発電所としての自動車の潜在能力をみる実験である。燃料電池とは、簡単に説明すると、水の電気分解を反対に行なうことで電気を取り出す方法だ。水素と酸素さえあれば、電気と水と熱が生み出される。静的な発電方法であるため電池と銘打ってあるが、これは発電機だ。ただし、得られる電力は直流であるため、家庭で使うためには変換する必要がある。それによって一部は失うことになるが、それでも十分と言ってよい。
この方式の最大の優位点は、エネルギーを水素の形で保存することができるところにある。たとえば日中、太陽光パネルで生み出された電力の余剰分で水素をつくり、それをためる。そして万が一の時、もしくは夜間などの補助として水素を使い発電する。自動車らしく移動にももちろん用いることは可能だ。
この方式のネックは、水素の獲得方法である。水素は自然界に、たとえば空気中に多量に存在するわけではない。水など別の形になっているものから取り出さなくてはならない。その問題さえクリアできれば、電気を電力会社から買う必要はなくなる可能性まで秘めているのだ。
太陽光パネルでつくられた余剰電力を水素に変えて自家消費する。それによって電気代からガソリン代まで自分でつくれることになる。電力会社は万が一の保険程度の存在になる。今は電力の買い取り価格が高いため、売電した方が有利だろうが、今後、低値で落ち着いた場合はそういった活用も現実味を帯びてくると思われる。燃料電池は技術的には十分実用段階に来ている。電気は自分でつくり自分で使う時代はもうそこまで来ている。
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