<経営会議(24)>
谷野は、
「私はそれよりも、辞めさせるということは経営責任を取って辞めるということですが、経営責任を取って今辞めるほど、皆さんがおっしゃるように風通しが悪い、あるいは今後の新3カ年計画はもうできないというのが、私はどうも理解できないのです。あなた達が求める退任理由に対して、私が自ら納得して『ごもっともだ』ということにならない。ましてや連続していろいろ不祥事があって、一致団結してやらなければならない時に、敢えて『頭取交代』の波風を立てることになり、本当に残念です。特に本部の役員は毎日のように事故対策等の対応や、あるいは中国財務局、西部財務事務所等との交渉、あるいは情報を持ち込んだ連中との接触、そういういろいろなことに対して大変なエネルギーを使っています。そういうことがありながら、川中営業本部長は全くそういうことに対しての意見を述べたことがない。情報担当は木下取締役、リスクやコンプライアンスは小林取締役で、各部も相当労力を使ってやっている。監査部もそうです。しかしながら、そういうことを目の当たりにしながら、この情報漏洩問題を含めた不祥事について、今こそ全行挙げて信頼回復をやっていかなければいけない時に、こういう問題でギスギスするのは本当に残念です。
私のやり方が非常に厳しいとか、あるいは叱られたとかいうことは沢山あったかもしれません。私の不徳の致すところで至らなかった点についてはお詫びします。
しかし、一方で弁解させてもらえば、不祥事が続いている時、あるいは赤字決算のあと、どなたかも当初おっしゃったように、『緊張感が足らない、それから過去ジリ貧の業績を何とかしないといけない。このままだったら大変だ』と皆さんからの危機感やご意見があり、その立て直しのために私はやってきました。それを成し遂げていく上で、当然皆さんにとっては非常に厳しい対応になったかもしれません。しかしそれを理由に全部を打ち消すのか、あるいは相殺勘定し、私の個性とかがマイナスという理由で、『あなたは退きなさい』と言われることに、私はどうも納得がいかない。
また、このことがマスコミに漏れたら大変なことになるという思いもあります。実際に私の退任を3時からの記者会見の時に、どういうふうに銀行に迷惑をかけないで対応するか、昨日からそればかりを考えていましたし、今もそのことが頭のなかで大きな重しとなっています。
皆さんの意見は多勢に無勢であろうと思い、次の対策として不審がられないために、私として、どのように対応したら良いのかを考えていますが、今は誰に言えません。もしここで正式に再任が駄目だということであれば、私はマスコミ対応をしなくてはいけません。また小林取締役は日銀、財務局に報告がありますので、その時の口裏を合わせもしなければいけなし、その協議もしないといけません。そういう状況にあるということを、もう一度頭のなかに入れてほしいと思います」
と、諦めと一縷の望みを捨てきれない心情を吐露するように話した。
※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。
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